江戸東京野菜を今に伝える畑へ 「亀戸大根」「大蔵大根」「金町小かぶ」@東京都小金井市

こんにちは。
北海道在住、野菜くだものハンター、
食と農のコンサルタント、田所かおりです。
東京都内の住宅地の中に、
畑が広がっていました。
そこでは、
「亀戸大根」「大蔵大根」「金町小かぶ」
といった江戸東京野菜が育てられています。

「亀戸大根」

「大蔵大根」

「金町小かぶ」
今回訪ねたのは、
これらの伝統野菜を栽培し、
地域の小学校と連携した食育にも取り組む
萩原英幸さんの畑です。

かつて江戸の人々の暮らしの中で
当たり前に食べられていた野菜たち。
しかし現在では、
その姿を見る機会は決して多くありません。
都市の中で受け継がれる野菜と、
その栽培の現場を見つめていきます。
畑に隣接する住宅は10軒ほどでしょうか。
すぐ隣に人々の暮らしがある環境の中で、
土の状態や気候に合わせた、
自然に近い栽培方法がとられていました。

現在の一般的な野菜栽培では、
地温や水分を安定させるために
マルチを使用することが多く、
均一な生育環境をつくるのが基本とされています。
しかし、萩原さんの畑では
その方法をとっていません。
畑の土はやわらかく、
内部には水分が保たれている状態でした。
「伝統野菜は、このやり方の方が
よく育つんです」
形を揃えるために強く管理するのではなく、
生育に応じて見極めながら育てる。
そのため、畑の中の野菜は
大きさや形にばらつきが見られます。
害虫対策には、
フェロモン剤(コンフューザー)が
使われていました。

畑の中には細い支柱が立てられ、
そこに設置された資材が見られます。
これは害虫の交信を撹乱することで
繁殖を抑える方法です。
農薬で直接駆除するのではなく、
発生そのものを抑えるという方法が
とられていました。
また、播種の時期についても
調整が行われていました。
近年は気温が高い時期が続くため、
従来の時期よりも
播種を遅らせることがあるといいます。
気温の影響を受けやすい品種では、
播種のタイミングによって生育が変わります。
取材時の畑では、
3つの伝統野菜が育てられていました。
■「亀戸大根」

播種から収穫までは、
およそ1か月半から2か月。
比較的短期間で収穫できる品種です。
収穫サイズは15〜20cmほど。
一般的な大根のように大きく育てるのではなく、
小ぶりな状態で収穫されます。

生育が早いため、
播種のタイミングが重要になります。
気温が高すぎる時期に播くと、
生育が乱れたり
品質が安定しないことがあるといいます。
そのため、近年は気候に合わせて
播種時期を調整しています。
葉も含めて利用されることが多く、
一株全体で使うことを前提とした品種です。

ここで、資料に基づく記述を見てみます。
亀戸大根は、おかめ大根、
おたふく大根とも呼ばれる。
形はふくらみがあり、
一般の大根に比べて小型である。
葉の茎は透き通った完全な白である。
亀戸大根は、
関東において同系統の大根は見られず、
むしろ関西の四十日大根と同系統に属する。
(『江戸・東京ゆかりの野菜と花』JA東京中央会)

畑で非常に印象深かったのは、
この茎の白さです。
大根の形といい、茎の白さといい、
とても美しい大根です。
■「大蔵大根」


播種は9月頃。
気温の影響を考慮し、
播種時期を遅らせることもあります。
この品種は、生育にばらつきが出やすい特徴があります。
畑の中でも大きさや形に違いが見られます。
肉質はしっかりとしており、
煮物や加工に適した性質を持っています。
収穫時期についても、
大きさだけでなく状態を見ながら
判断されていました。

資料には次のように記されています。
秋つまり大根が世田谷区の大蔵原に伝わって、
大蔵大根ともなり、
また晩生つまりや九日(くんち)つまり(早生)
といったように、
早生、中生、晩生に分かれていった。
円筒形の尻まで肉付きが良いのも特徴で、
すうっとのびていたのがここにきて急につまる。
そのため、
首から尻まで同じ形の揃えて
輪切りにできるのでムダもなく、
料理の出来上がりの見栄えが良い。
甘味が多いので、
とくに煮物に最高でたくわん用にも使えた。
(『江戸・東京ゆかりの野菜と花』JA東京中央会)

確かに、大根の根の先まで
しっかり詰まっていました。
■「金町小かぶ」

播種は9月中旬頃、収穫までは約60日。
こちらも比較的短期間で収穫できる作物です。
この品種は、
小さいうちに収穫することが
前提となっています。
肥大させるのではなく、
適度なサイズで収穫することで、
やわらかさと風味が保たれます。
収穫のタイミングによって品質が変わるため、
状態を見ながら収穫が行われていました。

資料では、このように記されています。
金町小かぶの誕生については二つの説がある。
一つは、江戸時代に金町周辺で
栽培されていた在来のかぶが改良され
成立したとする説である。
もう一つは、
他地域から伝来した品種がこの地に適応し、
金町の地で定着したとする説である。
栽培法は覆下栽培がおこなわれた。
これは、よしずの片屋根を南に向けて建て、
太陽の光と熱を受けて、北風は防ぐという、
自然の恵みを十分とり入れた栽培である。
加えて、よしずは雨を通すので
水やりが必要ないという利点もあった。
よしずの材料の葦は、
近くの江戸川の川原から豊富にとれた。
(『江戸・東京ゆかりの野菜と花』JA東京中央会)
3つの野菜を見比べると、
それぞれの違いがはっきりと見えてきます。
同じ大根やかぶであっても、
形や大きさだけでなく、
収穫時期や用途まで異なる。
それぞれが特定の食文化と結びつきながら
受け継がれてきたことがわかります。
さらに印象的だったのは、
萩原さんの取り組みが栽培に
とどまらないことでした。
地域の小学校で外部講師として授業を行い、
子どもたちと一緒に野菜を育てています。
畑づくりから種まき、
収穫、そして給食として食べるところまで。
栄養教諭とも連携しながら、
食と農をつなぐ取り組みです。
次は、場所を亀戸に移します。
亀戸の地には、「亀戸大根」の名を
今に伝える場所もあります。


亀戸香取神社の境内に建つ「亀戸大根之碑」。
こうした野菜は、
現在も料理として受け継がれています。
「亀戸大根」の産地であった亀戸の地には、
「亀戸大根」を使った料理を提供する
お店があります。

亀戸升本さんでは、
「亀戸大根」を主役にしたコース料理が用意されています。
生、色々な加熱の仕方で
「亀戸大根」を楽しむことができました。
一部のお料理の写真です。



どのお料理の器にも、
必ず「亀戸大根」が使われていました。
とても美味しくいただきました。
ご馳走様でした。
さて、萩原さんの畑から持ち帰った3品種を、
自宅でもいくつか調理してみました。
(腕力で持ち帰ったものです)
「亀戸大根」は縦半分に切って、そのままグリルに。

皮の内側に水分をたっぷりと
ため込んでいるようで、とてもジューシー。
噛むと、じゅわっと
甘い大根の汁があふれます。
皮はしっかりしていますが、
中身は繊維質があまり気になりません。
一般的な大根に感じるホクホク感とは異なり、
水分を含んだ軽やかな食感です。
葉はパリパリになったので、
味わいというより食感を楽しむ印象でした。
大根特有のえぐみは感じられません。

「大蔵大根」はそぼろ餡の煮物に。
形はしっかり残るのに、
繊維質が固くなく、
崩れるわけでもありません。
お出汁をしっかり吸い込み、
料理が品よくまとまります。

金町小かぶは、がごめ昆布と合わせて浅漬けに。
「金町小かぶ」は
甘みがしっかりと感じられます。
食感はパリパリとしていて、
繊維が強く主張せず、
心地よい歯応えです。
小ぶりな野菜に感じるような、
凝縮したおいしさがあります。
サラダとして生で食べても良く、
火を通す料理にも合いそうですが、
生で食べた方が
ポテンシャルを引き出せる気がします。
都市の中で育てられ、受け継がれてきた野菜たち。
それは単なる昔の品種ではなく、
土地の記憶であり、
人の営みの積み重ねでもあります。
今もなお育てられ、食べられ、
次の世代へと手渡されていきます。
江戸東京野菜は、
この土地に根づき続けています。

気になった方はぜひどうぞ。
取材にご協力いただきました皆様、
ありがとうございました!
今日はこのあたりで。
食と農の未来がより豊かになりますように。
参考文献
・『江戸・東京ゆかりの野菜と花』JA東京中央会
・『日本の野菜文化史事典』青葉高著 八坂書房
