こんにちは。
北海道在住、
野菜くだものハンター、
食と農のコンサルタントの田所かおりです。
何も知らずに「馬のかみしめ」と聞いて、
皆さまの頭に
何が思い浮かぶでしょうか。
馬具?馬の皮を使った製品?ジャーキー?
いえいえ、「馬のかみしめ」とは、
枝豆、大豆の品種名なのです。
このユニークでインパクトのある名前の
伝統野菜「馬のかみしめ」を求め、
9月中旬に遠藤さんの畑に伺いました。
こちらが今回お話を伺った
馬のかみしめ生産者の会、
ひなた村の遠藤孝志さんです。
「馬のかみしめ」の生産背景について、
まずその経緯を伺いました。
「馬のかみしめ」は、
美味しい豆としてその名前は
広く知られていました。
しかし、県の普及課が調査を行った際には、
栽培されている様子が確認できず、
一時は絶滅したと考えられていたほどです。
そんな中、実際に「馬のかみしめ」を
栽培されていた方が
いらっしゃることがわかりました。
この品種が表に出てこなかった理由は、
特定の業者からの依頼を受けて
個別に生産していたためで、
一般にはその存在が知られていなかったのです。
その方は、平成18年に豆の業者さんと一緒に、
他の伝統野菜を作っている
遠藤さんの元を訪れました。
自分自身ではだんだん栽培が
難しくなってきたため、
遠藤さんに「馬のかみしめ」を作ってくれないかと
依頼があり、
そこで伝統野菜の栽培が始まりました。
現在、「馬のかみしめ」は、
遠藤さんを中心に4軒の
農家が栽培しており、遠藤さんの畑が
主な生産地となっています。
しかし、他の農家は既に
特定の品目を栽培しており、
新たに馬のかみしめを栽培するのは
難しいため、定年退職した方などに
依頼して栽培に加わってもらっています。
「馬のかみしめ」という品種名について、
豆が扁平で平たい部分に歯型のついたような
模様があることに由来します。
歯形なら、伊達政宗のかみしめでも
よさそうですが、
馬とこの地域には深いつながりがありました。
長井市は農業が盛んな地域で、
最上川の源流に位置し、
かつては船で荷物を運び、
その後、馬を使って運搬していました。
馬は農家にとっても重要な存在で、
田おこしや作業で活躍していました。
私たちの家にも馬小屋があり、
馬とのつながりが息づいています。
市内には馬頭観音様が祀られているお寺があり、
また、馬肉の食文化もあるそうで、
馬刺しを食べたり、
馬肉のチャーシューがのったラーメンを
提供するお店が3件ほどあるとのこと。
長井市は、馬との深い結びつきが感じられる
地域であることがわかりました。
また、「馬のかみしめ」の来歴についてですが、
遠藤さん所有の平成2年に出版された本に
以下のような記述を見つけました。
置賜地方の在来種で、偶発実生で出たものと思われる。
ということで、来歴は不明です。
次に、「馬のかみしめ」の栽培についてです。
播種は田植え作業が終わってから、
直播で株間は約25㎝、
6月10日過ぎに行います。
今年の生育は遅れていて、
例年だと枝豆の収穫は
9月25日くらいの予定が、
今年は28、29日当たりになる見込みとのこと。
栽培管理は、基本的には草取りと
土寄せが2回ほど。
根粒菌の作用もあって、
肥料はほとんど入っていないそうです。
花は紫がかったピンク色で、
莢に付く毛は茶色です。
今の状態はこんな感じ。
草丈が結構高めで、大体1m20~30㎝くらいに
成長します。
太陽光の強さでも見え方が変わりそうですが、
葉の緑色も濃いように思いました。
そして、株を分け入ってくださって、
もう少し実が膨らむ様子を見せてくださいました。
茶色の毛は馬を連想させます。
枝豆の収穫は、手作業の限界があるので
大量には出せず、直売所などに並べば
すぐに売れてしまうそう。
出荷前は泥などを落とすために
水洗いをして選別して乾かす作業があり、
茶色の毛が抜けやすいため、
店頭に並ぶ時にはツルツルなんだそうです。
この馬のような毛の付いた姿は
店頭では見られないということで、
貴重ですね。
大豆としての収穫は、
10月の後半から11月頭くらいで、
葉っぱが落ちて枯れあがってから行います。
枝を振って、カラカラ音がするくらいが
目安です。
日長が短くなると成長が止まるけれども、
近年は、気温が高めで推移していて、
なかなか枯れてこない。
そのため、色の変化が急激で、
黄色になる間がなくて、いきなり茶色に
なります。
豆の色は基本的には緑色だけども、
収穫が遅れると、豆の緑色が飛んでしまうので、
気を付けています。
そして、冬の間に選別して、大豆としての利用と、
次の年の種に使います。
大豆としての利用は、
商品を委託加工して
煎り豆、お豆腐、納豆などで販売されています。
その一部がこちら。
「馬のかみしめウマうまポリぽり」
プレーン、塩、甘の3種類があります。
お土産でいただきました。
豆の味が濃くて、
止まらない美味しさでした。
お菓子屋さんなどにも提供されていて、
ジェラートや、コロネの餡として使われ、
色々な形で楽しめるそうです。
取材当日は、まだ収穫前で、
枝豆は鮮度が命なので、ご当地ならではの
枝豆の味は味わえないか、残念だ・・
と思っていたところ、
なんと、
冷凍保存されていた「枝豆」「じんだん」を
遠藤さんのお母様がふるまってくださいました。
まずは、「馬のかみしめ」枝豆の塩ゆで。
見てください!
この「馬のかみしめ」の輝き。
緑色も美しいです。
食べてみると、豆の香りがよく、
甘くて、豆の味が濃くて、
とても美味しかったです。
このお味の強さなら、
お菓子に入れても負けないと思いました。
そして「じんだん」です。
宮城県では、「ずんだ」のこと。
山形県の置賜地方での呼び方が「じんだん」です。
名前は、「陣太刀」が由来という説を
教えてくださいました。
こちらも、とても美味しいです。
豆らしさが強く感じられます。
うまく伝わるかわからないですが、
仙台エリアで数店舗、
ずんだのお菓子をいただいたことがありますが、
その「ずんだ」はもっと甘くて、硬さは緩め、
こちらの「じんだん」は豆がしっかり残っていて
前面に豆の美味しさが来る感じです。
例えるなら、
「ずんだ」はやわらかめの絹ごし豆腐。
「じんだん」は固めの豆の味の濃い木綿豆腐。
豆が原材料のお豆腐で例えたので、
さらに分かりにくかったらごめんなさい。
また、別の食べ方で、「ひたし豆」という
お正月に食べるお料理があるそうで、
お出汁と数の子と
一緒に豆をいただくお料理に、
この「馬のかみしめ」を使うと、
粒が緑色で大きくて見栄えもするとのことで、
喜ばれるそうです。
これだけ美味しくて見栄えもするのに、
栽培が増えない理由は何かあるのか伺うと、
収穫時の豆の成熟のばらつきが大きいことと、
一般の丸大豆に使われる選別機では、
豆が平べったくて転がらないので、
最終的には手選別をしなければならない
ということが理由であることが分かりました。
確かに自家用ならまだ良いかもしれませんが、
このような特性があると、大規模に生産するのは
厳しいですね。
「馬のかみしめ」の栽培に込められた
地域の歴史や文化を知ることができ、
改めてその魅力を感じました。
美味しさだけでなく、
地域に根付く伝統を支える人々の
努力にも感動しました。
気になった方はぜひどうぞ。
◆ひなた村
山形県長井市時庭1409
トップページ - ひなた村
「馬のかみしめ」の商品の他、
伝統野菜の「花作大根」、「行者菜」を使用した
加工品を販売されています。
WEBショップだけでなく、
長井市内の道の駅やお菓子屋さんで
「馬のかみしめ」を使った商品に
出会えると思います。
取材にご協力いただきました皆様、
ありがとうございました!
今日はこのあたりで。
食と農の未来がより豊かになりますように。