伏流水に育まれる伝統野菜「三関せり」の栽培と食@秋田県湯沢市

こんにちは。北海道在住、
野菜くだものハンター、
食と農のコンサルタントの田所かおりです。
11月中旬に訪れたのは、秋田県湯沢市。
今回の取材では、
こまちこまち農業協同組合の
佐々木智明さんにご案内いただき、
生産者の高橋司さんの畑を訪問しました。

写真左から、佐々木智明さん、高橋司さん
湯沢市は、清らかな水とともに育つ伝統野菜、
「三関せり」の産地です。

セリはセリ科の宿根草で、
日本、中国大陸、東南アジアなど
広い地域の湿地や水辺に自生する植物です。
各地の自生地で野生のものを
利用してきた歴史があり、
そこから栽培へと
進んできたとされています。
古くから食用とされ、
中国では紀元前の時代から利用され、
日本でも『日本書紀』や
『万葉集』に記述が残り、
春の七草の一つとして知られています。
水辺に根を張る植物であること。
この性質が、
「三関せり」の栽培と深く結びついています。

湯沢市三関の圃場では、
山からの水が流れ込み、
伏流水として絶えず畑を潤しています。
畑には水が引かれ、静かに、
しかし止まることなく流れ続けています。
その水の中で、セリは育ちます。

セリには「ランナー」と呼ばれる、
横に伸びる茎があります。
節ごとに根を出しながら
広がるこの性質を利用して
栽培が行われています。
高温になると
ツルのように伸びやすくなるため、
9月20日過ぎから25日頃にかけて
「まく」と呼ばれる作業を行います。
これは定植のことで、
この時期に行うことで
ツル状になるのを抑えることができるといいます。

三関での栽培方法は、
節のある茎を2〜3cmほどの間隔で
並べるように置いていきます。
隙間をあけすぎると
芽が出ない部分ができてしまうため、
やや厚めに並べるのが特徴です。
時間がある場合は
根を出してから植えますが、
作業の都合によっては採ったものを
そのまま並べることもあります。
水の管理も重要です。
植えた直後は水を入れすぎると
苗が浮いてしまうため、
様子を見ながら入れていきます。
一方で収穫期になると、
水は止めることなく流し続けます。
伏流水を引き入れ、
常に水が動いている状態を保ちます。
9月25日頃に植えたものは、
11月20日頃から収穫が始まります。
出荷は2月頃まで続き、
直売所への対応では
3月まで延びることもあります。
雪国ならではの特徴もあります。

セリ自体は寒さに強い一方で、
水が溜まると窒息してしまうため、
雪よりも水の管理が重要になります。
収穫は前かがみの姿勢で行われ、
長時間続くため体への負担も
大きい作業です。
こうして育てられた「三関せり」は、
「根を食べる」文化が特徴です。
実際に湯沢市内の飲食店でいただいた
セリ鍋では、
火を通した根から立ち上る香りが印象的でした。


噛むとシャキッとした歯ごたえの中に、
土のニュアンスとともに
セリらしい香りが広がります。
また、豚肉で巻いたセリ串では、
根と茎を合わせて食べることで、
香りと食感が一体になり、
セリそのものの存在感が際立ちます。

セリというと
葉や茎の印象が強い野菜ですが、
この地域では根に価値が置かれています。
寒い時期のセリは
特に根の風味がよく、
料理の中心として扱われています。
翌日の朝には、
「三関せり」の集荷の現場にも
立ち会いました。

生産者が軽トラックなどで次々と到着し、
箱に詰められたセリが
運び込まれていきます。
少し活気に満ちた
朝の空気の中で、
次々と作業が進んでいきます。

農協の担当者が箱を開け、
その場で中身を確認します。
束の揃い方、太さ、長さ。
ひとつひとつを見ていくその動きは素早く、
迷いがありません。
箱の中のセリは、
生産者ごとに微妙に表情が異なります。
同じ「三関せり」であっても、
仕上がりには個性があり、
それがそのまま箱の中に現れていました。

その場ではサイズの目安となる
見本も見せていただきました。

M、Lといった規格があり、
長くなりすぎたものは扱いづらくなるため、
収穫のタイミングも重要になります。
日々の栽培の積み重ねが、
そのまま評価の対象となる現場でした。

「三関せり」の生産者は約45人、
部会全体では約60人ほどで構成されています。
販売は農協を通じた出荷のほか、
直売所や市内のスーパーなどで行われています。

「三関せり」という名称は、
地域の名前とともに
受け継がれてきたものです。
品種としては「改良三関」や
「関口系」などが存在しますが、
現場では厳密に区別するというよりも、
「三関で育てられたセリ」として
扱われています。
水の中で育ち、根を食べる。
「三関せり」は、植物の性質と土地の環境、
そして食文化が重なり合って
成り立っている野菜です。

同じセリであっても、
地域によって育て方も食べ方も異なります。
その違いが、
その土地の文化として残っていることを
実感しました。
気になった方はぜひどうぞ。
取材にご協力いただきました皆様、
ありがとうございました!
今日はこのあたりで。
食と農の未来がより豊かになりますように。
参考文献
・『日本の野菜文化史事典』青葉高著 八坂書房
