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雪国で受け継ぐ「ちょろぎ」栽培と食文化@秋田県湯沢市

雪国で受け継ぐ「ちょろぎ」栽培と食文化@秋田県湯沢市

こんにちは。北海道在住、
野菜くだものハンター、
食と農のコンサルタントの田所かおりです。

 

秋田県湯沢市で、「ちょろぎ」の栽培と

加工について取材をさせていただきました。

 

今回の取材は、

10月上旬の栽培取材、

11月中旬の収穫、

そして加工の現場という、

時期を分けてのものです。

最初に訪ねたのは、
湯沢市ちょろぎ産地化研究会の皆さんのもと。
こまち農業協同組合の菊子良さんの案内で、
研究会の代表である
佐藤喜栄治さんの畑に伺いました。

この日は、佐藤さんを含む
3軒の生産者の方々が集まり、
菊子さんとともに
栽培についての聞き取りを行いました。

 

それぞれの畑での
取り組みや経験が持ち寄られ、
「ちょろぎ」という作物の難しさと
向き合っている様子が伝わってきました。

「ちょろぎ」はシソ科の植物で、
地下にできる小さな塊茎を食べる作物です。

巻貝のようでもあり、
いもむしのようでもあるその形は、
一度見ると印象に残る独特のものです。
おせち料理の黒豆の上に添えられる
赤いちょろぎとして、
目にしたことがある方も
多いかもしれません。

ちょろぎは中国華南・華北を原産とし、
日本には17世紀後半頃に
伝わったとされています。
「長老喜」「長老木」などの字があてられ、
長寿を喜ぶ縁起物として扱われてきました
(『日本の野菜文化史事典』
青葉高著 八坂書房)。

しかし現在、日本で流通する
「ちょろぎ」の多くは中国産です。

国内でまとまった産地は
ほとんど残っておらず、
湯沢のように栽培が続けられている地域は
限られています。

「ちょろぎ」の栽培は、
前年に収穫したものから始まります。

収穫したちょろぎの中から
種として使うものを選び、
発泡スチロールの中に埋めて
保存しておきます。

それを春にポットへ植え、
6月に入ってから畑に定植します。

この地域では、少ない年でも2メートル、
多い年には4メートルほどの
雪が積もります。

冬の間、畑は完全に雪に覆われるため、
栽培できる期間は限られています。
雑草対策としてマルチを使いながら、
短い季節の中で育てていきます。

しかし「ちょろぎ」は、
地上からは出来が分からない作物です。

地上部は青々と茂り、
順調に育っているように見えても、
地下にどれだけできているかは分かりません。

掘ってみるまで、収量が分からない。

葉がよく茂っていても、
地下にはほとんどできていないことも
あるといいます。

さらに、シーズン途中で
株が黒く枯れてしまうこともあり、
その原因ははっきりと分かっていません。

肥料の与え方や土壌の状態、
気象条件など、
さまざまな要因が関係していると
考えられていますが、
再現性のある栽培には
至っていないのが現状です。

「良かれと思ってやったことが、
裏目に出ることもある」

肥料を与えすぎることで
地上部ばかりが成長し、
地下のちょろぎができにくくなる
可能性もあるかもしれません。

人の手で
コントロールしきれない部分を持つ作物。
それが、「ちょろぎ」です。

佐藤さんの畑では、
およそ200株の「ちょろぎ」が
栽培されています。

「ちょろぎ」の栽培は、
佐藤さんのおばあさまの世代から
続いてきたものでもあります。

長い時間をかけて
受け継がれてきた作物ですが、
その継続は決して簡単ではありません。

収穫後には、
手作業での選別と丁寧な洗浄が必要です。

こうした手間の大きさもあり、
年々生産者は減少しています。

収穫時期も変化しています。

以前は10月25日頃から
収穫できていたものが、
近年は11月10日頃にならないと十分に育たず、
収穫が遅れる傾向にあります。

 

11月中旬、再び佐藤さんの畑を訪ねました。

この日は、
佐藤さんご夫婦と菊子さんとともに、
収穫の様子を見せていただきました。

土を掘り返すと、
無数に伸びた茎の先に
白いちょろぎが現れます。

 

収穫したばかりの「ちょろぎ」は、
真っ白で美しく、
光を受けてきらりと輝きます。
しかし時間の経過とともに
少しずつ色が変わっていきます。

収穫された「ちょろぎ」は、
小さなものも含めてすべて活用されます。

形の整ったものの中でも、
2〜3巻きほどのバランスの良いものが
好まれますが、
小さなものも
刻んだ漬物の中に入れるなどして使われます。

収穫した「ちょろぎ」は、
湯沢市下院内の
雄勝野きむらやさんで
漬物として加工されます。

店頭にはさまざまな漬物が並び、
その中に「ちょろぎ」の商品もあります。

木村社長にお話を伺うと、
この作物の特異な性質が見えてきました。

「年末が10だとすると、普段は1くらい」

ちょろぎの需要は、
年末に集中します。

日常的に食べるものではなく、
おせち料理という
特別な場面で使われる食材です。

黒豆の上に添えられる赤いちょろぎは、
「長老喜」という意味を持つ
縁起物でもあります。

そのため、見た目や形の美しさも
重要になります。

加工は、洗浄、塩蔵、酢漬け
といった工程を経て行われます。

この工程は非常に繊細で、
酢の量や加熱温度がわずかに変わるだけで
食感が変わってしまいます。

柔らかくなりすぎず、
形を保ちながら仕上げるためには、
細かな調整が必要です。

また、添加物などを一切使用していないため
色も味も難易度があがります。

加工の工程で特に重要になるのが、
原料の状態です。

「ちょろぎ」は節の間に
土や小さな石が入り込みやすく、
そのままでは加工工程で問題になります。

木村社長によると、
石が混入したままだと
金属探知機に反応してしまうため、
早い段階でしっかりと
取り除く必要があるとのことでした。

そのため、収穫後はできるだけ早く丁寧に
洗浄することが重要になります。

取材の際には、
佐藤さんの奥様が作ってくださった
「ちょろぎ」の酢漬けをいただきました。

佐藤さんのご家庭の味を、
訪問したときの情景に思いを馳せながら、
いただきました。

食べてみると、
シャキシャキとした歯ごたえがあり、
とても美味しく感じました。

さらに、素揚げにしても美味しいと伺い、
調理していただきました。
ほくほくとした食感で、
ゆり根のようなやさしい口当たりです。

こうした食べ方ができるのも、
産地ならではの魅力です。

「ちょろぎ」は、
自然の中でそのまま残る作物ではなく、
人の手によってつなぎ続けられてきた作物です。

再現性のない栽培、
雪との時間との勝負、
繊細な加工技術、
そして年末に集中する需要。

そのすべてを受け止めながら、

おせち料理という
日本の食文化の中で必要とされ、
その意味とともに受け継がれてきました。

畑で育てる人、加工する人、つなぐ人。

その一つひとつの営みが重なり、
この作物は今もここにあります。

雪を前にした畑で、
白く輝くちょろぎを見ながら、
そのことを強く感じました。

雄勝野きむらや
秋田県湯沢市下院内常盤町99
TEL:0183-52-3650
今回はちょろぎの取材でしたが、
いぶりがっこで有名な漬物屋さんです。
店内のしつらえも素敵なので、
ぜひ近くに行かれた際は立ち寄ってみてください。

気になった方はぜひどうぞ。


取材にご協力いただきました皆様、

ありがとうございました!

 

今日はこのあたりで。
食と農の未来がより豊かになりますように。

 

参考文献
・『日本の野菜文化史事典』青葉高著 八坂書房

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