水を張る畑で育つ伝統野菜「くわい」その育ち方と食文化@埼玉県さいたま市見沼区

こんにちは。北海道在住、
野菜くだものハンター、
食と農のコンサルタントの田所かおりです。
埼玉県さいたま市見沼区。
低地に広がる水田地帯の一角で、
水を張った圃場の中に、くわいは育てられています。
水の中で育つ野菜と聞くと、
少し不思議に感じるかもしれません。
くわいは湿地を好み、
地下にできる球茎を食べる作物です。
秋から冬にかけて収穫され、
年末の限られた期間に一気に市場へと出ていきます。
今回訪れたのは「見沼ひるま農園」です。
案内してくださったのは、
高橋敦さんです。

高橋さんは2018年に会社員を辞め、
奥様の実家である農家に就農されました。
それまで農業とは無縁だったそうですが、
年末の繁忙期に
くわいの収穫を手伝ううちに、
その独特な作物に
引き込まれていったといいます。
現在は露地野菜を中心に栽培しながら、
くわいの生産も続けています。
規模の拡大よりも、
栽培文化を残すこと、
そしてくわいという作物を
知ってもらうことを
大切にされている姿が印象に残りました。

埼玉が産地といわれるくわいですが、
実際には身近な存在とは
言い難いかもしれません。
私の実家は埼玉にありますが、
これまでくわいに触れる機会は
ほとんどありませんでした。
取材に行くと伝えたとき、
両親は「たぶんあのあたりかな」と
場所の見当はついていたものの、
詳しく知っているわけでは
ありませんでした。
同じ地域にありながら、
どこか遠い存在。
その距離感が、
この野菜の現在地を表しているようにも
感じられます。

「くわい」は、
見た目からは想像しにくいのですが、
いわゆる根菜ではありません。



地中にできる丸い部分は「根」ではなく、
「匍匐茎(ほふくけい)」と呼ばれる
茎の先端が肥大したものです。
地上部から伸びた茎が
地中を横に走り、
その先端に球状の部分が形成されます。
つまり、
私たちが食べているのは、
土の中で広がる茎の一部
ということになります。

この地下の構造は複雑で、
一株から複数のくわいがつきます。
葉の数が多いほど地下の伸びも増え、
それが収穫量にも関係していきます。
生育は夏から秋にかけて進みます。
8月頃になると地中に匍匐茎が伸びはじめ、
9月にかけてその先端が硬くなり、
小さなくわいの形が現れます。
そして秋の終わり、
最後の数週間で
一気に肥大していきます。
栽培は一年を通して、
水とともに進みます。
6月中旬、水を張った圃場に
一株ずつ定植していきます。
足元が不安定な中での作業は、
見た目以上に体への負担が大きいといいます。
その後も水を切らさないよう管理を続けます。
水が途切れると腐敗につながるため、
水管理は栽培の中でも重要な工程です。
8月には「葉掻き」が行われます。
葉を間引き、地下の球茎に
栄養を回すための作業で、
すべて手作業で行われます。
そして11月から12月、
収穫の時期を迎えます。



泥の中から現れたくわいを、
一つひとつ手で拾い集めていきます。


そして、茎についたものは
茎から外す作業をします。




収穫後は選別作業が行われます。

機械にかけて転がすことで
「L」「M」「S」といったサイズに分けられ、
その後は目視で確認されます。

「くわい」は色でも品質が判断されます。
青みがしっかりと出ているものが良品とされ、
紫がかったものはB品として扱われます。

今年は青さが足りないとのことで、
仕上がりは年によって
違いが出ることもわかります。
こうして選別された「くわい」は、
洗浄や皮むきを経て出荷されます。
出荷のピークは12月上旬で、
年末の需要に合わせて作業が集中します。
一年かけて育てたものが、
短い期間で市場へと送り出されます。

「くわい」は、
お正月料理に欠かせない食材でもあります。
芽がまっすぐ伸びる姿から
「芽が出る」縁起物とされ、
お祝いの席に並んできました。

私は、高橋さんおすすめの
ホイル焼きにしてみました。
食べてみると、
皮にほのかな苦味があり、
食感はほくほくとしながらも軽やかです。
噛むほどにやさしい甘みが広がります。
どこか、とうもろこしのような
甘い香りが立ち上がるのも印象的でした。

見沼ひるま農園では、
「くわい」を使ったクッキーも
販売されています。

「くわい」の風味が残るよう、
こだわりを持ってつくられています。
その味わいは、
日常の中でも楽しめる形へと
広げられています。

品種については「アオクワイという
カテゴリーでしか分からない」とのことで、
現場では一つの系統として
扱われていることがわかります。
くわいは中国から伝わり、
日本では古くから栽培されてきましたが、
現在は生産量が減少し、
栽培を続ける人も限られています。

水の中で育ち、
土の中で形をつくり、
限られた時期にだけ姿を現す「くわい」。
その姿と背景を知ることで、
この野菜の見え方が
少し変わるように感じました。

◆見沼ひるま農園
所在地:埼玉県さいたま市見沼区
HP:HOME - 見沼ひるま農園_公式ホームページ
見沼ひるま農園ONLINE SHOP:見沼ひるま農園
気になった方はぜひどうぞ。
取材にご協力いただきました皆様、
ありがとうございました!
今日はこのあたりで。
食と農の未来がより豊かになりますように。
参考文献
・『日本の野菜文化史事典』青葉高著 八坂書房
