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畑のキャビアと呼ばれる伝統野菜「とんぶり」江戸時代から続くGI産地を訪ねて@秋田県大館市

畑のキャビアと呼ばれる伝統野菜「とんぶり」江戸時代から続くGI産地を訪ねて@秋田県大館市

こんにちは。北海道在住、
野菜くだものハンター、
食と農のコンサルタントの田所かおりです。

 

秋田県大館市で
長く受け継がれてきた食材に
「とんぶり」があります。
小さな粒が特徴で、「畑のキャビア」
とも呼ばれるこの食材は、
プチプチとした独特の食感で
知られています。

しかしその背景には、
栽培、加工、地域文化が重なり合った
奥深い歴史があります。

今回訪れたのは、10月上旬、
秋田県大館市のとんぶり生産組合。

組合長の本間均さんに、
とんぶりの栽培や加工、
そして地域で受け継がれてきた食文化
についてお話を伺いました。

「とんぶり」は、
アカザ科の植物「ホウキギ」の種子を
加工した食品です。

ホウキギは近年では
観賞植物として「コキア」と呼ばれ、
公園や庭園などで
丸く育つ姿がよく知られています。
秋になると真っ赤に紅葉するため、
観光地でも人気の植物です。

ただし、食用のとんぶりをとるホウキギは、
観賞用のコキアとは別の品種です。

見た目もよく観察すると
少し違いがあります。
観賞用のコキアは葉の色が明るく、
光を受けると
やわらかく反射して美しく見えます。

一方、とんぶり用のホウキギの葉は
それに比べると少し落ち着いた色合いで、
ややマットな印象があります。

枝ぶりにも違いがあります。
園芸品種のコキアは丸く整った姿になり、
枝の広がり方も美しく、
形が整っています。

一方、とんぶりのホウキギは
栽培途中で一度剪定を行い、
枝数を増やして実をつけやすくします。
そのため観賞用のコキアのような
整った球形にはならず、
やや自然な枝ぶりになります。

観賞植物として楽しまれるコキアと、
食材として育てるホウキギ。
似ているようで目的も姿も
少し違う植物なのです。

とんぶりの栽培は、
4月末から5月上旬の種まきから始まります。
苗を育てたあと、
6月中旬頃に畑へ定植します。

ホウキギは成長すると
草丈が1メートル前後まで伸びますが、
70センチほどの高さで芯止めを行います。
枝数を増やし、実を多くつけるためです。

栽培自体は比較的丈夫な作物ですが、
水はけのよい土壌が重要です。
水が溜まると根が弱ってしまうため、
畑の条件が収量に大きく影響します。

現在、大館市で
とんぶりを生産している農家は7軒ほど。
決して大きな産地ではありませんが、
この地域で長く守られてきた作物です。

 

収穫は10月上旬から始まります。

この日、畑ではちょうど
地域の小学生たちが
とんぶりの収穫体験を行っていました。

全校児童35人ほどの小さな学校で、
毎年続いている地域行事だそうです。

 

子どもたちは、
生産者が刈り取ったホウキギを運び、
脱穀作業を担当するふかわりょうさんへ
手渡していきます。
ふかわさんが枝についた実を落とす作業を行い、
子どもたちは次々とホウキギを運んでいきます。

こうして畑では、生産者、子どもたち、
そしてふかわさんが
一緒になって作業が進んでいきます。
小さな種を落としていく脱穀の作業は、
普段の生活では
なかなか体験できないものです。

この活動には、
芸人であり「とんぶり応援大使」として
活動しているふかわりょうさんも
参加していました。
実はこの活動、
4年連続で参加しているそうで、
地域の行事としてすっかり定着しています。

収穫されたホウキギの実は、
そのままでは食べることができません。

ここからが、
とんぶり作りの大きな特徴でもある
加工の工程です。

まず実を煮て皮を柔らかくし、
その後、揉むようにして皮を取り除きます。
小さな粒をきれいに取り出すには
手間がかかり、
この工程を含めて完成までには
およそ3日ほどかかるそうです。

皮が取れた実は
黒く光沢のある粒になり、
プチプチとした独特の食感が生まれます。

こうして加工されたとんぶりには
いくつかの販売形態があります。

最も鮮度が高いのが「生とんぶり」で、
10月中旬から3月頃まで出回ります。
消費期限はおよそ2週間ほどです。

次に「真空パック」。
こちらは保存期間が約2か月ほどになります。

そして「瓶詰め」。

クエン酸などで調整され、
半年ほど保存できる商品もあります。

乾燥した状態から戻したとき、
良い年でおよそ3倍ほどの量に
なることもあります。
ただし状態によっては
2倍程度にしかならない年もあり、
品質には差が出るそうです。

 

こうして作られるとんぶりは、
江戸時代にはすでに食材として
利用されていたといわれています。

寺院の精進料理や仏事料理などでも使われ、
秋田ではくるみ和えや白和え、
納豆和えなどの料理に使われてきました。
味は淡白ですが、
プチプチとした食感が特徴で、
さまざまな料理と合わせやすい食材です。

魚卵のような見た目から、
近年では「畑のキャビア」と呼ばれることもあります。

そして、とんぶりは
2017年(平成29年)、
農林水産省の地理的表示保護制度(GI)に
登録されました。

GIとは、
その地域ならではの品質や評価を持つ
農林水産物や食品の名称を保護する制度です。
地域の自然条件や伝統的な生産方法と
結びついた産品として
認められたものだけが登録されます。

つまり、とんぶりは
大館の土地と人の営みの中で
育まれてきた食文化として、
国から正式に認められたということになります。

とんぶりの原料であるホウキギは、
かつては掃除道具として使う
「ほうき」の材料としても
利用されてきました。

枝を束ねて作るほうきは、
昔の農家では身近な生活道具でした。

そのため、
この植物は単なる食材というだけではなく、
暮らしの中で役立つ植物でもあったのです。

ほうきとしての利用と、食材としての利用。

ひとつの植物が
生活と食文化の両方に関わっていたことが、
とんぶりという作物の面白さでもあります。

ふかわりょうさんに好きな食べ方を聞くと、
とてもシンプルな答えが返ってきました。

「とんぶりに生姜をおろして、
醤油をかけて、ご飯にのせると
すごくおいしいんですよ。」

さらに、生ハムで包んで
食べるのもおすすめだそうです。
プチプチとした食感と
塩味の組み合わせがよく合うのだとか。

ということで、
私も生ハムと一緒にいただきました。

美味しかったです。

昔ながらの和食にも、
現代のアレンジにも合う。
とんぶりの面白さは、
こうした懐の深さにもあるのかもしれません。

現在の生産農家はわずか7軒。
決して多くはありません。

しかし、学校での収穫体験や地域の活動、
そしてとんぶりを応援する人たちの存在によって、
この食文化は今も受け継がれています。

畑に立つホウキギは、
一見すると観賞用のコキアとよく似ています。
しかし、その小さな粒の中には、
秋田の食文化と地域の営みが
ぎゅっと詰まっているのです。

道の駅ひない

瓶のとんぶりはこちらで手に入れました。
取材時に入手したものは前シーズン産だと思うので、
もしかすると、年中手に入るかもしれません。

その後、本間さんが送ってくださった、
「生とんぶり」!をいただきました。
確かに、こちらの方が美味しい。
とんぶりのクリアな味ってこれなんだな。
という感想を持ちました。
どちらか選べる場合は、ぜひ「生とんぶり」を
おすすめします。

気になった方はぜひどうぞ。


取材にご協力いただきました皆様、

ありがとうございました!

 

今日はこのあたりで。
食と農の未来がより豊かになりますように。

 

参考文献
・『日本の食生活全集5 聞き書 秋田の食事』農山漁村文化協会

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