こんにちは。
北海道在住、
野菜くだものハンター、
やさい直売所コンサルタントの田所かおりです。
今日は、屋久島の伝統野菜「かわひこ」のレポートです。
昨年11月下旬に伺いました。
「かわひこ」は、屋久島の在来サトイモです。
『日本のふるさと野菜』によると、
江戸時代前に南方から屋久島町栗生に導入され、
当時は地名をとって「芋生(いもお)」と
呼ばれていました。
「かわひこ」の由来は、湧水のあるところに
よく生育することや、川幸彦を略して「かわひこ」
になった言い伝えがあります。
今回、畑に伺う前に寄った
産地の近くの直売所「ぽんたん館」では、
「餅芋(もちいも)」の名で販売されていました。
こちらが今回畑を見学させていただいた
ナカラセ果樹園の日高さんです。
日高さんが生産されている主要農産物は柑橘類で、
タンカン、ポンカンを中心に、雑柑類も
栽培されています。
また、屋久島の野菜料理のお店、
「食彩なからせ」を経営されており、
お店で提供されるお料理で使う野菜やコーヒーも
作られています。
コーヒー栽培は6、7年前から本格的に始められました。
コーヒーの花は5月連休くらいから咲き、
収穫は年明けくらいに実に色がついた頃に行います。
珈琲豆といえば、赤い実だけかと思っていたのですが、
なんと、黄色い実の品種もあるんですね。
そして、赤い品種は樹勢が弱いということで、
黄色の品種を選択されたそう。
日高さんのお店では自家栽培のコーヒーを
味わうことができます。
もちろん、国産コーヒーです!
今回の滞在期間中ははタイトスケジュールの為
断念しましたが、
時間があればお食事含め伺いたかったです。
とても残念です。
さて、こちらが「かわひこ」です。
私が見たことがある里芋よりも少し茎が華奢で、
葉の色がビビットな緑色で、
葉脈と葉の形が美しいです。
ナカラセ果樹園さんでの「かわひこ」の栽培ですが、
お爺さんの時代からあったそうで、
30~40年は作られているそうです。
この集落でもぼちぼち自家用で栽培されていた
ということですが、
作る人が少なくなってきており、
まとまった面積で栽培されているのは数件とのこと。
もともと、お正月にお雑煮のかわりに食べるもので、
お芋がお餅のような食感になり、
また、汁の下に沈んでいるのがお雑煮の様
なのだそう、それで餅芋(もちいも)なんですね。
サトイモがお餅のよう?
と頭の中にハテナが付きましたが
これは後ほどレポートしたいと思います。
聞けば、「かわひこ」をお正月に頂く文化は
屋久島町の南部地域と限られ、
他の土地での栽培は上手くいかないと
言われているそうです。
それはどういうことかというと、
別の場所で作るとお餅のような食感が出ず、
普通の里芋みたいな食感のものしかできないのだそう。
確かめた事実はないということですが、
上手くできないという話が続いていて、
誰も試していないそうです。
「かわひこ」の伝説みたいでなんだかいいですよね。
実際の栽培は、
3月に子芋を植え付け、
育ってきたら土寄せをして
収穫は12月の末から1月いっぱいに行います。
虫の被害や病気はほぼ無し。
近くの産直での販売は、
主にお正月に食べるものなので、
1月10日過ぎには需要がなくなるとのこと。
それに合わせて出荷し、お店で出す分も確保し、
子芋は次のシーズンの種芋となります。
連作ができないため、また別の畑に植え付けます。
「かわひこ」は親芋を食べる里芋とのこと。
中には大きい子芋があるので
それは食べる場合もあるそうです。
「かわひこ」を1株掘ってくださいました。
~品種分類では赤芽群に属し、文献では
屋久島の黒茎赤芽となっている。
親・子いも兼用種である。
草姿は直立性で、茎は黒茎、青茎がある。
分球が多く、子いも、孫いもの頂芽は地上部に
萌芽しやすく、株あたりの葉柄数は多い。~
『日本のふるさと野菜』より
とある通り、子芋も地上に葉を持っています。
それで最初の印象が華奢に見えたのですね。
こちらが親芋です。
今回掘り出してくださったお芋は
日高さんによれば、ちょっと小さいくらい。
だいたいふた回りくらい大きく、
重さにして800gくらいがいい大きさとのこと。
大きくても1㎏を超えることはないそう。
芋の大きさは気候に左右され、夏場の雨の量で変わり、
水分が多い方が大きくなるのだとか。
昔は、水辺で作っていたと聞いたことがあるそうです。
親芋を食べるということは、
植えた株数=芋の収穫個数
ということで、今シーズンの収穫は
400から500個くらいだそう。
とても貴重なお芋です。
「かわひこ」の来歴は不明だけれども、
一説には遣唐使船と一緒に南の方から
やってきたのではないかと。
近くの赤い橋が架かっていた川に
吉備真備の船が着いたそう。
だから、この地にこの「かわひこ」が根付いた
のではないかと。
そんな歴史のある「かわひこ」、
今の時代まで受け継いで栽培されてきたことに
胸が熱くなりました。
壮大な歴史を持つ「かわひこ」ですが、
調理方法も普通の里芋と違うというではないですか。
なんと、水で2時間近く煮ないと
餅のような食感にはならないそうです。
驚きです。
2時間煮ないといけないお芋なんてあるんですね。
味付けした汁で煮ると、硬くなるそうです。
このように調理に手間がかかることから、
現代の食卓には受け入れられにくく
なくなってきているようです。
ちなみに、味付けは一般的に砂糖醤油。
みたらしよりも砂糖が強め。
鹿児島県の食習慣から、お醤油も甘いので、
結構甘そうですね。
後日、参加した縄文杉ツアーのガイドさんに、
「かわひこ(餅芋)」の話題を振ってみたところ、
次のような答えが返ってきました。
この地域にお正月にご挨拶に伺うと、
手のひらに餅芋をポンと1つ置いてくれるんです。
それがかなり甘い。
ご家庭ごとにこの一連の流れがあり、数件回るとお腹いっぱい。
味は、美味しいけども頭に響くほどの甘さ。
どうやって味付けしているか聞いてみたら、
ザラメをたっぷり入れていると教えてくれたそう。
ザラメをたっぷり。
予想以上に甘そうです。
とても貴重なお話を聞くことができました。
ということで、旅行から帰って早速写真撮影。
縦に切ってみるとこんな感じ。
中は白く、太い繊維のようなものが走っています。
そして、驚いたのが包丁につくでんぷんの量。
真っ白です。
お鍋の中に入れた時も、すぐに水が濁りました。
この濁りがモチモチを生み出すのでしょうか。
水で2時間煮て、何も味付けせずに頂いてみることに。
見てください、お芋の表面はドロッとしています。
そして、お箸で切ってみるとこんな感じ。
見た目は、お芋の中心部分は粉質のような感じですね。
頂いてみると、どろっとした部分は葛湯を固くした感じ。
本体のお芋は、モチっとした食感です。
これが餅芋か!と納得する歯ごたえです。
お餅と比べると、少しホクホク感もあり、
歯切れの良いお芋の自然な甘みと
八つ頭に近い里芋の風味がするお餅、
という感じでしょうか。
とても美味しい。
私は、お餅より好きかもしれません。
そして、オーブンで焼いたらどうなるか、
試してみました。
ホクホクで、繊維質が残っていて、
もっちり食感は全くありません。
でもこれはこれで美味しいです。
澱粉とお水が作用して、加熱を一定時間加えると、
あの食感になるのでしょう。
今回は、壮大な歴史と強い個性を持つ里芋に
出会うことができました。
ずっと屋久島の地域の食文化として
残っていってほしいです。
気になった方はぜひ
屋久島南部を訪れてみてはいかがでしょうか。
日高さんが経営されている食堂でも
召し上がることができます。
黄色い実のコーヒーもぜひ。
◆食彩なからせ
所在地:鹿児島県熊毛郡屋久島町原896-4
電話:0997-49-3011
営業時間:11:30~14:00
定休日:木曜日・第3日曜日、12月~3月
ビビットなピンクの看板が目印です。
安房港から車で15分ほどです。
◆屋久島町まごごろ市 ぽんたん館
所在地:鹿児島県熊毛郡屋久島町麦生898-2
電話:0997-47-2557
営業時間:8:30~17:30
屋久島町の特産品が沢山あり、
お土産探しにもおすすめです。
近くにトロ―キの滝あり。
屋久島町役場の大堀さんにご案内いただきました。
親くいいも、ポンカンの見学でも大変お世話になりました。
ありがとうございました!
今日はこのあたりで。
食と農の未来がより豊かになりますように。