山菜の里・西川町 月山の自然がはぐくむ「月山筍」ネマガリダケ@山形県西川町

こんにちは。北海道在住、
野菜くだものハンター、
食と農のコンサルタントの田所かおりです。
2025年6月上旬、
西川町総合開発株式会社の
齊藤育緒さんの案内で、
西川町の山裾に広がる
「ネマガリダケ(チシマザサ)」の畑を
訪ねました。

「ネマガリダケ」は正式には
チシマザサの若芽で、
東北から北海道にかけて
広く自生しています。
その中でも月山のふもとで採れるものは、
雪の重みで根が曲がり、
ゆっくりと成長することから
「月山筍」と呼ばれます。
雪の下で時間をかけて育つため、
柔らかく、香りが高く、
ほんのりとした甘みがあるのが特徴です。
いわば「ネマガリダケの中の逸品」として、
古くから山形を代表する春の味覚とされています。
畑を案内してくださったのは、
長年月山のふもとで
この竹と向き合ってきた渋谷啓子さん。
雪深い山形の春を
知り尽くしたお母さんです。

左から、齊藤さん、渋谷さん
西川町では、
雪解けの早い睦合地区から収穫が始まり、
5月下旬になると月山に近い大井沢地区へと
産地が移っていきます。
雪深い地域ならではの、
ゆるやかな季節のリレーがここにはあります。
畑に到着すると、
一見すると自然林のように見える笹薮の中に、
タケノコがひっそりと顔を出していました。
「最初はどこにあるか
全くわからなかったけど、
目が慣れると見えてくるんですよ」と
齊藤さん。

渋谷さんの案内で、
私も一本、収穫を体験させていただきました。


地面に手を伸ばし、
逆方向に軽く折るようにして採るのがコツ。

「それ、上等だね」と渋谷さん。
白から赤、そして緑へと色が変化する
見事な一本でした。
収穫のあと、
渋谷さんがご自宅で作ってくださった
「ネマガリダケ」の筍汁を
ふるまってくださいました。

「この辺はね、
少ししょっぱいくらいが美味しいんです」
と渋谷さん。
サバ缶を入れる家庭もあれば、
鰹節で出汁をとる家もあり、
家ごとに味が違うのだそうです。


お天気が心配される畑の風の中で、
山の幸がふんだんに使われた
お漬物、煮物も美味しくいただきました。


ネマガリダケは成長が早く、
雨が降って晴れると一日で
10センチも伸びることがあります。

収穫の適期は地上に10〜15センチほど
顔を出した頃。
遅れると「裏折り」と呼ばれる
30センチほどの長さになり、
下部が硬くなってしまいます。

逆に早すぎると柔らかすぎなのだそう。
成長が早いため、
2日に1度は畑に入って
確認しなければならないそうです。
竹林の中は柔らかな木漏れ日が差し込み、
地面には落ち葉が層をなし、
雑草を抑える自然の
マルチのようになっています。


竹林の理想的な密度は
「10メートル先にいる人が見えるくらい」。
光がうっすらと差し込む環境こそ、
美味しい筍を育てる条件です。
収穫したネマガリダケは、
太さと長さで等級が分かれます。

太くて立派なA品は1本焼きに、
細くて長いC品は節を除いてたけのこご飯に。
短くても太いものは天ぷらにちょうど良い。
食べ方によって選び方が変わるのも、
この山菜の奥深いところです。
「太いものが一番いいとは
限らないんですよ」と齊藤さん。
上部が青すぎるものは硬く、
香りが青臭くなる。
理想的なのは、先端が緑、
中ほどが赤みを帯び、
根元が白いものだといいます。

この地域では、
もともと田んぼだった土地を竹林に転換して
栽培が始まりました。

ネマガリダケには、
山に自生する「天然もの」と、
畑で管理して育てる「栽培もの」があります。
天然ものは「月山筍」と呼ばれ、
標高の高い山林に自生し、
雪の下でゆっくりと育つため香りが高く、
歯ごたえがしっかりしています。
一方、畑のネマガリダケは、
もともと田んぼだった土地を利用して竹を植え、
光の入り方や密度を調整しながら
管理されたもの。
手入れを続けることで品質が安定し、
えぐみが少なく柔らかいのが特徴です。
西川町では、この「畑のネマガリダケ」が
地域の新たな資源として、
山の恵みと人の手が共に活きる形で
受け継がれています。
20〜30年前、町が良い竹苗を
斡旋した時期があり、
月山から掘ってきた
天然の竹をもとに広がっていったそうです。
植えてから3〜5年ほどで
安定した収穫ができるようになり、
現在では西川町の特産のひとつとなりました。

ただし、竹林の管理には
多くの手間がかかります。
夏はツルを取り除き、
秋は古い竹を間引く。
冬は雪の重みで竹が倒れますが、
春の雪解けとともに起き上がります。
もしツルが絡んでいると立ち上がれず、
カビて枯れてしまう。
人の手が入らなくなると、
湿度が増して竹が枝分かれし、
やがて光が届かない荒れた林に。
こうなると再生は難しくなります。
「天然の竹でも、
人が入って収穫すること自体が
管理なんです。
人が入らなくなると、
竹が弱ってしまう」と渋谷さん。
人の暮らしと自然のバランスが、
この竹林を支えているのです。
収穫後は加工場へと運ばれます。
道の駅にしかわの敷地内にある
山菜加工施設では、
ワラビやタケノコなどを
塩蔵・冷凍加工しています。
こちらはこれから加工される
大井沢産のワラビです。

太さがあり、長くなっても
穂先が開きにくく柔らかいのが特徴
とのこと。


主な加工方法は塩蔵で、
直売所の販売状況に応じて、
収穫したワラビをそのまま出荷するか、
塩蔵加工するかを判断しています。

ネマガリダケの加工は、
茹で時間は約2分半から3分。
皮付きのまま茹で、
冷水で冷やしたのち真空パックにし、
急速冷凍機で凍結します。

この方法により、
収穫直後の鮮度とシャキッとした
食感を保てるのだそうです。
「冷凍しても少し食感は変わりますが、
急速冷凍ならほとんど落ちません。
収穫したその日に冷凍するんです」
と齊藤さん。
地域の飲食店や料亭へも出荷され、
西川町の味を支えています。
同じ施設では、わらびや赤こごみなどの
山菜も加工されています。
また、施設のすぐ近くには、
町が整備したワーキングスペースと
宿泊機能を兼ねた新しいレジャー施設も開業。
西川町総合開発株式会社が運営する
「道の駅にしかわ」は、
山菜や加工品の販売だけでなく、
ビール醸造や温泉、
サウナなど多角的な事業を展開しています。
西川町は、日本酒、ビール、ワインの
3つの酒類を製造するメーカーが
存在する珍しい町でもあります。
「第三セクターの私たちにとって、
地域と共に動くことが大事なんです。
園地を借りて管理し、収穫物に代金を支払う。
それが地域への還元にもなる」。
3年前から始めた園地保全活動は、
竹林の持ち主が高齢化して
管理が難しくなった土地を引き受け、
次世代につなぐ取り組みとして
続けられています。
取材の最後には、
道の駅に併設された
レストランで昼食をご馳走になりました。

ネマガリダケが一本入った
冷たい山菜のお蕎麦。
山菜たっぷりで山の恵みのお蕎麦です。


ネマガリダケの一本焼き。


しっとりとした味わい。

山菜の天ぷら。
ネマガリダケ、ふきのとう、タラの芽、しどけ。


ホクホクアツアツのネマガリダケの天ぷら。
美味しいです。

山ぶどうの皮で色づけした大根の漬物。
パリパリとした食感が楽しい。
季節の恵みが並ぶお膳は、
山菜の町・西川ならではの味わいでした。
山ぶどうの皮で色づけした大根の漬物は
鮮やかな紫がかった漬物が目にも楽しく、
ここには山の恵みをふんだんに取り入れた
暮らしがあると感じました。
美味しくいただきました、
ご馳走様でした!
かつて田んぼだった土地が、
いまは竹の園地となり、
町を支える資源となる。
積雪3メートルを超える豪雪の地で、
自然と人の営みが折り重なる風景の中に、
持続可能な地域の姿を見た気がしました。
◆西川町総合開発株式会社(道の駅にしかわ)
〒990-0742
山形県西村山郡西川町大字水沢2304
営業時間:9:00〜17:00
休業日: 年末年始(12/31・1/1)
売店、直売所、レストランも充実しています。
隣には、水沢温泉館があります。

道の駅では、いろいろな食材を入手したのですが、

山菜王国ならではの本も
手に入れることができました。
『西川の郷土食』(山形県西川町発行)

本を眺めていると、
山の恵みの味が恋しくなります。
気になった方はぜひどうぞ。
取材にご協力いただきました皆様、
ありがとうございました!
今日はこのあたりで。
食と農の未来がより豊かになりますように。
