アブラナ科の江戸東京野菜「後関晩生小松菜」と「しんとり菜」を訪ねて@東京都小平市

こんにちは。
北海道在住、
野菜くだものハンター、
食と農のコンサルタントの田所かおりです。
今回は、東京都の伝統野菜
「後関晩生小松菜」「しんとり菜」
についてのレポートです。
2品目ともアブラナ科の野菜です。

「後関晩生小松菜」は、
後関種苗(東京都江戸川区)で育成された、
耐暑、耐寒性のある、
周年栽培可能な小松菜といわれています。

「しんとり菜」は、
本名はチリメン白菜(唐菜)。
以前は茎の白い部分を利用してきたので、
しんとりナといわれてきた。
現在は、茎、葉ともに利用する。
(『農業技術体系 野菜編 地方品種』より)
とあるように、名前の由来が
食べる部位に由来する野菜です。
これら2つの江戸東京野菜を求めて、
1月中旬に川里さんの畑に伺いました。

こちらが今回お話を伺った
川里賢太郎さんです。
川里さんは、有機・無農薬で
葉物野菜を中心に栽培し、冬場はニンジンも
手掛けています。
葉物は、ルッコラ、スイスチャード、
サラダホウレンソウ、ラディッシュなど。
「後関晩生小松菜」「しんとり菜」は数年前から
取引先の依頼で生産を始められました。
生産のハイシーズンは1月、
気温が下がる2月は被覆して温度を補います。
葉物の生産は、6月中下旬の初夏から夏の間は
アブラムシが出てくるので作らず、
8月お盆過ぎたら、播種を再開するとのこと。
ただ、ここ数年は、
気温が高い日が1か月くらい伸び、
種をまいても全然ものにならないそう。
シーズン中は、1日に10~20束を目安に
出荷できる量を調整しながら播種を行っています。




収穫は、フォークで根元をほぐし、
株をそろえて根を切ります。
「後関晩生小松菜」は
一般的な小松菜に比べて、
茎が折れやすく、
「しんとり菜」は、「後関晩生小松菜」より
葉が広がるため、さらに扱いにくいそう。

「しんとり菜」を上から見るとこんな感じです。
収穫作業を拝見しましたが、
ものすごく丁寧に、
扱っていることが伝わってきました。
また、発芽、生育の揃いが悪いのも
マイナス面とのこと。

確かに、大小さまざまです。
種は日本農林社から購入、
自家採種はされていないそうです。
どなたでも種は入手できるので、
挑戦されたい方には朗報ですね。
畑から、建物内の作業場に移り、
袋詰めまでの作業を見せていただきました。
作業の手順として、
双葉を取り除き、
根の部分を水で洗い、200gを袋に詰めます。




これらは、お土産用に袋づめいただいたもの。
鮮度が良いからこそ折れるそう。
収穫から袋詰めまで気が抜けませんね。

直売所に置くスタイルはこちら。
POPに伝統野菜の内容が書かれています。
生産して出荷したら、割と評判が良くて、
やってみてよかったなと思うけれど、
茎の折れやすさや発芽の揃いが
一般品種に劣るため、
生産されて、すたれていった理由を
実感されたそうです。

それでも川里さんは、
野菜の美味しさにこだわって
生産出荷されています。
というのも、大きく育てた方が
重量も出て手間も少なく楽に商品を
作ることができますが、
「人によっては“もったいない”と
言われるかもしれませんが、
私は小さいサイズの方が美味しいと感じています。」と。
一般より少し小さめのサイズで
出荷されているのです。

見てください。
スーパーで見かける小松菜の草丈の
半分ほどです。
最近のスーパーで手に入れられる小松菜は、
1袋に3、4株入りが多い気がしますが、
全然違いますよね。
小さめサイズが美味しいことを
お客さんが認識され、
「この小松菜細くて柔らかくて美味しいわ。」
と言って購入されていくそう。
「伝統野菜だから作っているわけではないんです」
と。
でも、その味わい深さや丁寧な仕事ぶりから、
結果的に“伝統”を守りながら、
野菜の美味しさをしっかり
伝えていると感じました。
毎日が試行錯誤という川里さん。
これからも美味しい葉物野菜を作ってください!
自宅に戻り、
「後関晩生小松菜」は、
川里さんがお好きな食べ方とおっしゃった
おひたしにしていただきました。
えのきだけと合わせてみました。

この細さ、とても心地よい歯ごたえです。
有機栽培だからなのか、品種特性なのか、
普段食べているもののサイズ感との違いなのか、
非常に心地よい歯ごたえで美味しくいただきました。
個人的に、キュウリやズッキーニは小さめの
歯ごたえが好みで、
小松菜もこのサイズが大正解で、
スーパーに並ぶものもこのサイズで出回ってほしいと
感じました。

「しんとり菜」は
さっと、ごま油で炒めて中華風に。
軽いシャキシャキ感は、
食が進み、美味しくいただきました。
暑い季節にもぴったりな
爽やかな軽やかな味わいでした。

川里さんの生産された野菜は、
JA東京むさしの直売所などで販売されています。
好評で店頭に並ぶとすぐに
なくなってしまいますので、
購入されたい方は、
早めの時間帯をお勧めします。
◆JA東京むさし
ファーマーズ・マーケット(直売所)|JA東京むさし
三鷹市、小平市、国分寺市、小金井市、武蔵野市
に各1か所、あります(2025年6月現在)。
気になった方はぜひどうぞ。
取材にご協力いただきました皆様、
ありがとうございました!
今日はこのあたりで。
食と農の未来がより豊かになりますように。
~マニアックな方向け情報~

「後関晩生小松菜」にちなんで、小松菜を
掘り下げます。
小松菜はカブナや茎立菜に禁煙の品種と
いわれている。
しかし、カブナ群やアブラナ群とも違っていて、
おそらくいくつかの品種間の交雑で
成立した品種であろう。
小松菜は『成形図説』に
下総国葛飾郡小松川地方(現在東京都)で
産したところから出た名で、
「茎円(まろく)して微(すこし)青く味旨し」
とある。
江戸名産に葛西菜というツケナがあったといわれ、
小松菜はこの後代と思われる。
(『日本の野菜文化史事典』青葉高著より)

「しんとり菜」(チリメン白菜)(唐菜)
分布地域(原産地)東京都区内、埼玉県、神奈川県
問合せ先:後関種苗
収穫適期は25㎝くらいの時、5~7株で
一束にして出荷する。
執念栽培がおこなわれ、春まきで40日、
夏まきで30日、秋まきで40~60日で収穫される。
葉は淡黄色みの強い緑色で全体的に丸葉である。
低温機栽培では抽苔するので、
保温に充分つとめる。
(『農業技術大系』野菜編 第11巻より
執筆年1988年)
※ちなみに、後関種苗は廃業されています。
※参考文献
・『農業技術大系』野菜編 第11巻
東京都 地方野菜 東京都農業試験場 井田昭典著
・『日本の野菜文化史事典』 青葉高著 八坂書房