飛騨・美濃伝統野菜「春日きゅうり」山間の風土が織りなす味@岐阜県揖斐川町

こんにちは。
北海道在住、
野菜くだものハンター、
食と農のコンサルタントの田所かおりです。

今回は、岐阜県の伝統野菜
「春日きゅうり」についてのレポートです。

「春日きゅうり」はスーパーでよく見る
きゅうりとは違って、
少し太めのきゅうりです。

一昨年に、岐阜県が認証する
「飛騨・美濃伝統野菜」に選ばれました。

ちなみに、認証条件は、
1.岐阜県で主に栽培されていること
2.岐阜県の気候風土により特性がみられること
3.古く(昭和20年以前)から栽培され、
地域に定着していること
(岐阜県HPより)

そんな、「春日きゅうり」を求めて、
8月上旬に
揖斐川町役場の野原さんのご案内で、
揖斐川町春日の山間にある、
山田さんの畑に伺いました。

こちらが今回お話を伺った
山田千恵子さんです。

山田さんのお宅では、
代々「春日きゅうり」の他に、
「春日豆」、「じゃがいも」も生産されています。

「春日きゅうり」は自家用につくる方が多く、
おそらく120~130軒ほど。
販売用の生産は少ないそうです。

この辺りはお茶の産地で、
「春日きゅうり」は、お茶畑に這わせて
栽培されていました。

しかし、今では、
お茶の手刈り作業が負担となり、
お茶生産から離れる方も
増えているといいます。
山田さんもその一人で、
なるべく昔と同じ方法で
育てたいとの思いから、
地面に這わせて「春日きゅうり」を
栽培されています。

ちなみに、茶畑で「春日きゅうり」を作ると、
実が枝の間に生るため、
カラスなどに狙われなくて
よかったそうです。
なんと画期的と思いました。

播種は直播で4月から7月にかけて
複数の作型で実施します。
発芽して、本葉1枚目から数枚の間に
摘心をして、分枝させます。

こちらは、7月に播種した苗です。

このように摘心します。

摘心は早い方が良いそうです。

その後は2~3週間に一度、
株元に施肥をします。
ちなみに、木の棒を立てている場所が
株元の印だそうです。

確かに、つるが伸びるとどこから伸びたのか
わからないですね。
株数はこの畑だと30~40株ほどでしょうか。

めったに来ないけれども、
サルが来ると一気に食べられてしまうため、
数か所に分散して栽培されていました。

スタンダードな害獣は、ハクビシン。
きゅうりの軸がついている方が
苦いので、先の方だけ食べていくそう。

なんとグルメな。
ちなみに、水が少ないと
苦くなりやすいそうです。

潅水をされているか伺ったところ、
標高が高く、山特有の気候で、
朝霧があるので水はいっさいやらないそう。
マルチもなしとのこと。

「春日きゅうり」は揖斐川町でも
栽培がうまくいくのは山間部だけ。
平野部で栽培してみたところ、
花は咲くけど実がならない、
実ったとしても苦いそうで、
この山特有の気候でないと「春日きゅうり」
の味が出せないということがわかりました。

4月に播種した株からの収穫は
8月から9月にかけて。
ちなみに今年は、
播種後から今までが寒い日が多く、
成長が遅れているそうです。
追い播きした作型の収穫が11月くらいまで
続きます。

緑色の若めの「春日きゅうり」は、
主に漬物や生で食べ、
生育が進んだものは、
少し黄色くても火を通して汁の具などで
いただくそうです。

採種は各家庭で自家採種をされています。
採種は1つあれば十分だそう。
薄緑色から黄色、茶色くなって完熟すると、
少し膨らむそうで、
切って種を取り出して干して保管します。

発芽は一昨年のものも発芽したとのことで、
3年くらいは余裕で持ちそうです。

山田さんの畑に訪問する前に、
近くの、直売所がある
かすがモリモリ村リフレッシュ館に
寄ったところ、
「春日きゅうり」が販売されていました。

そこでは、緑色と赤系がありました。
販売員の方の説明から、
茶色の方がよりモッチリした食感で、
昔ながらの種ということがわかりました。

スタンダードな「春日きゅうり」は
どういうものか
山田さんと野原さんに伺ったところ、
緑色のがほとんどで、
赤系も「春日きゅうり」だけども、
ごく限られた地域でのみ作っている、
中山の系統、ということでした。

「春日きゅうり」だけでも
色々な系統があって、
掘り下げたらさらに
面白いと思いました。

ちなみに、「春日きゅうり」は
戦前から栽培されて
いることはわかっているようですが、
この地域にやってきたのがいつなのかが
わからないとのことで、
山田さんも知りたいと
おっしゃっていました。

もしかすると、
想像よりもっと昔から作られている
野菜なのかもしれません。

そして、「春日きゅうり」のお料理を、
ご用意してくださっていました。
感激です!

「春日きゅうり」は若い実は皮を剥かなくても
食べられるのも特徴だそうです。

こちらが 1品目目は、三杯酢和えです。

みずみずしい、ソフトな食感できめ細かい。
表面がトロっとしている感じです。
初めての「春日きゅうり」のお味に感激です。
野菜にモチモチという言葉を
使うなんて、どんな食感だろうと
思っていましたが、
まさに、モチモチ!
理解しました。

2品目は、シーチキンと春日きゅうりの煮物です。

こちらはすごくやわらかい大根、
もしくは、とうがんのような食感でした。
シーチキンのお出汁がしみこんでいて
美味しく頂きました。

山田さんは冷やして食べるのがお好きとのこと。
確かに、夏のメニューに嬉しいですね。
豚肉と一緒に煮て食べることもあるそうです。

3品目は、春日きゅうりとじゃがいものお味噌汁です。

お味噌汁の「春日きゅうり」も、
モチっと、とろっとしている感じで、
ジャガイモもほくほくで
美味しくいただきました。
みょうがを入れるとより美味しいそうです。

『聞き書岐阜の食事』にも、
土地の食文化として、きゅうりのお味噌汁が
紹介されていました。

そして、その場でカットしてくださった、
フレッシュな「春日きゅうり」と、
塩漬けをただきました。

若い実は種を取らない時もあるけれど、
とった方が見た目が良いので、
基本的に種はとるそうです。

生で食べるときは、お味噌と塩が定番。
生で食べると、歯ごたえが弾力性があって、
加熱したものより、
コリコリというか、
シャキシャキより弾力性がある感じでした。
とても瑞々しかったです。

「春日きゅうり」の漬物は、
皮を剥かずに塩ふって重しをのせて
若めのきゅうりを漬物用にするそう。
フレッシュな状態から水分が抜けて、
食感は、パリパリ感も少しありました。

どのお料理もおいしくいただきました。
ご馳走様でした!

ちなみに、よくスーパーで見かけるような、
我々にとっては一般的なきゅうりは
召し上がるのか伺ったところ、
「都会の」「おしゃれな」キュウリと表現され、
ポテトサラダなどには、
「春日きゅうり」は水分が多いから
一般的なキュウリを使われるそうです。

春日で生まれ育った
山田さんと野原さんにとっては
普通のきゅうりは「春日きゅうり」で、
スーパーにあるキュウリはマイナーという
ことがわかり、新鮮に思いました。

伝統野菜の「春日きゅうり」が
スタンダードだなんて、
とても素敵なことだと思います。

最後に、自宅に持ち帰った
直売所で購入した赤系の「春日きゅうり」を
鯖缶と一緒に煮てみました。

確かに、モッチリしている気がしました。
赤系は皮は固かったので、
剥いて食べたほうがよさそうです。

多くの人が、きゅうりに火を通すの?と
疑問に思われるかもしれませんが、
この「春日きゅうり」のようなキュウリは、
火を通していただくと、よりその良さが
理解できるのではないかと思います。

揖斐川町春日だからこそ味わえる
「春日きゅうり」。
皆さんも、味わってみてはいかがでしょうか。

◆かすがモリモリ村リフレッシュ館
所在地:岐阜県揖斐郡揖斐川町春日六合3429
https://morimorimura.com/#

気になった方はぜひどうぞ。

取材にご協力いただきました皆様、
ありがとうございました!
そして、ご馳走様でした!

今日はこのあたりで。
食と農の未来がより豊かになりますように。

※参考文献
・『聞き書 岐阜の食事』 森 基子他編 農文協

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