甘さと強い香りが美味しい!葉まで楽しめる伝統野菜「拝島ねぎ」@東京都昭島市

甘さと強い香りが美味しい!葉まで楽しめる伝統野菜「拝島ねぎ」@東京都昭島市

こんにちは。
北海道在住、野菜くだものハンター、
食と農のコンサルタント、田所かおりです。

今回は、東京都の伝統野菜「拝島ねぎ」
についてご紹介します。

訪れたのは1月中旬。
拝島ネギの産地である昭島市にて、
市役所の飯島さんにご案内いただき、
市役所すぐそばの住宅街に囲まれた
井上さんの畑へ伺いました。

写真左が、今回お話をお聞きした
拝島ネギ保存会の井上茂夫さん。
右が昭島市役所の飯島剣さんです。

現在、保存会のメンバーは9軒。
井上さんは、兼業農家として
平成25年から「拝島ねぎ」の栽培を
手がけていらっしゃいます。



「拝島ねぎ」は、
拝島の地に根付いた土着のネギで、
何代にもわたって
この地で作られてきたものです。

ちなみに、昭島市の名称は、
昭和29年に昭和町と拝島村が合併した際に、
両方から一文字ずついただいて
名付けられたのだとか。

「拝島ねぎ」は、昭和初期に茨城から
伝わったとされ、
原品種の名前は不明です。
当時の拝島村は米やジャガイモ、
サツマイモの産地でしたが、
とある方が茨城でネギの栽培法を学び、
優れた品種だと感じて
持ち帰ったことがきっかけだそうです。

「拝島ねぎ」は
「一本ネギ」と呼ばれるタイプで、
分けつ(株分かれ)がしやすく、
やわらかいのが特徴。
昭和40年ごろには、
生産農家が20軒ほどにまで
増えていたといいます。

その後、収益性の高い
養蚕業が導入されるなど、
時代とともに農業の形は変化。
桑の木も多く植えられました。

現在では、農地の多くが
市街化調整区域となり、
農地の相続税や固定資産税が
宅地並みにかかることから、
畑を手放す方も少なくないとのこと。
こうした事情について初めて知ることも多く、
大変勉強になりました。

井上さんの栽培では、
250穴のトレイを6枚ほど使用して
苗づくりをされています。
播種は2〜3月、
定植は5月末から遅い人では7月末までと
幅があります。
収穫時期は10月末から翌年2月ごろまで。

採種は各農家が行い、
2年に1度、種を持ち寄って
混ぜてから播種することで、
圃場ごとのばらつきを防いでいるとのこと。
地域ぐるみの協力体制がうかがえます。

ただ、年々種が小さくなっており、
発芽率の低下も課題とのことでした。

 

「拝島ねぎ」は、スーパーなどに卸す際は
太さによって2〜3本単位で、
また、産業まつりや農協・直売所では
1袋500gの単位で販売されています。

 

畑によっては
土寄せが少なく
白い部分が短いこともありますが、
全体がやわらかいため
葉まで食べられる品種。
そのため、重量での販売が一般的です。

飯島さんによれば、
都の職員による研究で、
寒くなる季節の方が
甘味が増すことがわかっているそう。
ただ、毎年11月中旬に開催される
産業まつりに向けて需要が高まるため、
その時期に合わせて栽培される方が
多いのだとか。

出荷期間はおよそ2か月間に限られるため、
通年で「拝島ねぎ」を知ってもらうべく、
「拝島ねぎみそ」などの加工品も販売されています。
使用されている味噌は
愛知県産のこだわりのもの。
昭島駅前の東急インの朝食でも
提供されているとのことです。

なお、帰りに農協の直売所「みどりっ子」に
立ち寄ってみましたが、
人気のため購入できませんでした。
残念。

「拝島ねぎ」は、
やわらかさゆえに栽培が難しい一方、
それが美味しさの理由でもあります。

F1品種と比べてもその柔らかさは顕著で、
たとえばF1品種の「関羽一本太」と
並べると違いは一目瞭然。

 

「拝島ねぎ」は、風に弱く、
台風時には倒れやすいほか、
高温にさらされると
溶けてしまうこともあるとのこと。
収穫もすべて手作業です。

一般的なネギでは、
株元を揺らして収穫しますが、
「拝島ねぎ」はそれでは折れてしまうため、
周囲の土を丁寧に除けて、
慎重に掘り上げます。

そして、こちらがF1品種の「関羽一本太」。

 

葉がピンと立っていて、
全体的に丈夫です。

「拝島ねぎ」は瑞々しく、
繊細な質感が伝わってくるようでした。

生では辛味が強いものの、
加熱することで甘味が引き立ち、
何度も火を通すととろけてしまうほど。

あきる野市の人気レストラン
L'Arbre(ラルブル)のシェフにも
愛用されており、
直売所のほか、小学校の給食にも
出荷されているとのこと。
小学生のみんな、
うらやましい限りです。

井上さんのおすすめは、
やはりお味噌汁。
やわらかいので、
2〜3回の加熱には耐えないそうです。

一方、飯島さんは、
ネギだけを天ぷらにして
塩でいただくのがお好きとのこと。
「ネギの旨味がストレートに味わえる」と
教えてくださいました。

「拝島ねぎ」は、
例年11月中旬の産業まつりから
出荷が本格化します。
気になる方は、
ぜひ足を運んでみてください。

昭島市では、
地下水をくみ上げており、
水道水が美味しいことでも知られています。

かつてはワサビの栽培も盛んで、
湧き水のある窪地には
鯉が泳ぐ光景もあったそう。
現在は下水道整備の影響で
湧水は減っていますが、
清らかな環境が野菜の味わいにも
影響しているのかもしれません。

井上さんから、
「拝島ねぎ」と

F1品種の「関羽一本太」を
いただきました。

飯島さんが「拝島ねぎは匂いがすごい」
とおっしゃっていた通り、
車に乗って1分もしないうちに、
ネギというよりニラやニンニクに近い香りが
車内に広がり、
その強さに驚きました。
この香りこそが、
美味しさの秘密なのかもしれません。

この日の夕食は、
「拝島ねぎ」メニューを
期間限定で提供するお店
「ふく花」さんへ。

まずは「拝島ねぎの天ぷら」。

1本分を豪快に揚げた一品で、
店主の福島宏一郎さんによれば
「下仁田ネギを揚げたような甘さで、
サイズは一般的なネギ」とのこと。

塩でいただくことで、
香りと甘味が引き立ちました。

 

続いて、「拝島ねぎのつけそば 温汁」。

つけ汁には「拝島ねぎ」のピューレと、
鴨の脂で焼いた「拝島ねぎ」、さらに鴨のハラミ肉が。

蕎麦粉は長野県産の信濃1号を使用し、
手打ち。
お蕎麦の上には味変用の
ジュリアンヌコンフィ。


濃厚な味わいは
ラーメンにも通じる感覚で、
素材の魅力を存分に味わえました。

福島さんによると、
年間20品ほどの変わり蕎麦を
考案されているそう。
ほかのメニューもぜひ
試してみたくなりました。

どちらもとても美味しく、
日本酒好きの食通におすすめしたいお店です。

帰宅後は、
井上さんおすすめのお味噌汁で
「拝島ねぎ」をいただき、
やさしい甘さと香りを楽しみました。

◆みどりっ子昭島店(東京JAみどり)

所在地:昭島市玉川町5-16-17

https://ja-tokyomidori.or.jp/farmstand/akishima.html


◆ふく花

所在地:昭島市玉川町3-13-2

https://www.fukuhana2987.com/

気になった方はぜひどうぞ。

取材にご協力いただきました皆様、

ありがとうございました!

今日はこのあたりで。

食と農の未来がより豊かになりますように。

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