こんにちは。
北海道在住、
野菜くだものハンター、
食と農のコンサルタントの田所かおりです。
今年最初のレポートは、
100年以上の歴史を持つ
群馬県前橋市の伝統野菜「石倉根深葱」です。
ネギといえば冬の野菜の代表格。
旬を迎えた「石倉根深葱」を求めて、
1月上旬に、がってん野菜さんの畑に
伺いました。
こちらが今回お話を伺った
がってん野菜合同会社 相談役の角田勉さんです。
角田さんは元々カネコ種苗にお勤めで、
長年ブリーダーをされてきた方です。
品目は、キャベツ、ネギ、玉ねぎの
担当をされていました。
退職後に「がってん野菜」を起業されました。
まさかの私も元同じ職種ということで
驚かれていましたが
とても興味深いお話を
聞かせていただきました。
まずは、「石倉根深葱」の由来についてです。
「石倉根深葱」は、澤野丑太郎氏が
1919年に千葉県から「鈴木葱」を購入し、
在来種と交配して改良し作出された品種です。
1931年に、当時ネギの産地であった
「石倉」の地名から
「石倉根深葱」と命名されました。
ちなみに、澤野丑太郎氏は角田さんのご親戚で
小さいころ怒られたと笑って仰っていました。
その後、丑太郎氏が採種を事業化。
1933年に上石倉根深葱採種組合が結成され、
種の生産、販売を組織的に開始。
当時の写真から、選抜がしっかり行われ、
とても揃いの良い品種だったようです。
戦時中には「石倉根深葱」の種が
統制物資として全国に配布され、
日本中に広まりました。
世の中の変化で、
採種組合は種が売れなくなり1993年に解散。
全国に「石倉」の名のつくネギは
沢山あるけれども、
元がわからないほどの状況に。
強いて言うなら、カネコ種苗の品種が
近いとのことでした。
また、近隣の農家の方から
分けつがひどいので改善してほしい
という要望を受け、
角田さんは、2008年から、
分けつしない、首の形は和服の襟状、
柔らかい、白根が太くて長いことを目標とし、
「石倉根深葱」再生にむけて
4回選抜繰り返し、2018年に完了。
その後「石倉根深葱H30」として
種を無償で配布されました。
これは技術的に誰にでもできることではなく、
ブリーダーだった角田さんの
知識と経験があったからできたことです。
しかも10年の歳月を費やして、
無償でなんて、驚きです。
それから7年。
2024年秋に、「石倉根深葱」の選抜方法を
レクチャーされる勉強会を開かれたそうです。
題して、石倉葱フェーズ2。
個人的には、近隣の生産者さんはもちろん、
「石倉」と名のつく品種を販売している
種苗会社各社のネギ担当者の方にも
ぜひ学んでほしいですし、私も興味を持ちました。
ちなみに、ネギの首の形は和服の襟状という
表現についてですが、
この写真を見れば一目瞭然です。
左側が「石倉根深葱」、
右側がカネコ種苗の「白翠」。
左側のネギの葉が分かれている部分に
ご注目!
分かりにくいという声が聞こえてきそうなので、
拡大します。
「石倉根深葱」
一番左のネギなんかは、和服の衿そのものですね。
対して、「白翠」。
垂直に葉がついています。
この角度で、やわらかい、
硬いがわかるそうです。
非常に面白いですね。
近年は、生産側の理由として、
収穫が機械化されても問題ないことや、
売る側の理由として、
棚もちの良さを優先するため、
硬いネギがスタンダードになっています。
「石倉根深葱」の特徴である
しわしわも、消費者が
なんとなく選択しにくいなと感じる
点かもしれません。
次は、作型についてです。
「石倉根深葱」の播種は
3月末から4月上旬の春まき。
9月下旬から10月上旬の
秋まきも可能ですが、
抽苔しやすいそうです。
定植は春まきが7月、
秋まきが4月から5月くらいです。
移植機で株間が3㎝程度で植えつけます。
定植時は平らで、土寄せを4回ほど行います。
収穫は、春まきが12月から3月、
秋まきが9月から10月。
こうして約1年かけて栽培され、
調整されて、
がってん野菜直売所に並びます。
こちらの直売所ではすべてのお野菜が
なんと100円!
今高騰しているキャベツもです。
私が滞在している間にも
次々とお客様が来店されていました。
前橋市の皆様はうらやましいです。
帰り道に、角田さんに教えていただいた、
「石倉根深葱」種の記念碑が建てられた
神明神社にお参りに行きました。
こちらが石倉葱採種組合が解散する時に
建立された記念碑です。
この場所に採種組合の事務所が
あったそうです。
この記念碑がある限り、
正しい形質の「石倉根深葱」を
未来につないでほしいです。
角田さんに伺ったおすすめの食べ方
焼き葱で「石倉根深葱」をいただきました。
実は、私は葱の固くて苦いのが
あまり好きではなく、
焼き葱も滅多にしないのですが、
食べてみてびっくり。
これは本当に美味しい!
太めの部分は少し生っぽいかなと思ったのですが、
じゃりっとした葱特有の食感と臭みは全くなく、
しっとり甘いです。
そして、火が通るのも早い。
一般的なバリバリのネギより、軟白ネギの方が
柔らかくてマイルドな口当たりですが、
軟白ネギ以上の柔らかさと甘さを感じました。
これはまさに、品種の力ですね。
ネギ嫌いの人におすすめしたい、
そんな美味しいネギでした。
色々な理由で生産が少なくなってきた
「石倉根深葱」ですが、
こんなに美味しいなら、
生産量をもっと増やして色々な方に
召し上がってほしいです。
最後に、
元に近い形質の再生と、
正しい採種技術を普及し、
地域に本物の「石倉根深葱」を再び広める
角田さんの取り組みは、
伝統野菜の新しい保存方法として、
非常に興味深く感じました。
石倉葱フェーズ2には期待しかありません。
◆がってん野菜直売所
所在地:前橋市大友町3丁目-11
https://www.instagram.com/gattenyasai311
営業は、9:00~18:00 土日お休み
営業日等の詳細は
インスタグラムでご確認ください。
訪問時は「石倉根深葱」の他に、カリフローレ、
ニンジン、ブロッコリー、ホウレンソウ、
白菜、大根、キャベツ、アスパラ菜
が販売されていました。
気になった方はぜひどうぞ。
取材にご協力いただきました皆様、
ありがとうございました!
今日はこのあたりで。
食と農の未来がより豊かになりますように。