![伝統を守る新規就農者の挑戦「民田なす」の今@山形県鶴岡市](https://seed-to-harvest.jp/wp-content/uploads/2024/12/IMGP1142-scaled.jpg)
こんにちは。
北海道在住、
野菜くだものハンター、
食と農のコンサルタントの田所かおりです。
今回は、山形県の伝統野菜
「民田なす」についてのレポートです。
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山形県の鶴岡市付近では、昔から
「民田なす」が名産品になっていて、
今でもこの地方では
ナスといえば「民田なす」を指し、
「民田なす」の辛子漬はこの地方の
名物になっています。
「民田なす」の由来には2つの説があり、
一つは、庄内藩主酒井公の初代の頃、
江戸方面から導入されたとされる説、
もう一つは、民田部落に近い、南外内島に
住み着いた落人が、
京都から持参したとする説です。
そんな「民田なす」を求めて、9月中旬に
JA鶴岡大山事務所の佐藤さんを訪ね、
土岐さんの畑に伺いました。
こちらが今回お話を伺った
大山園芸振興会なす部会民田なす班の
土岐広昭さんです。
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土岐さんは、2013年に新規就農されました。
その時に、農協の指導員の方に
何を作ろうか相談され、
ナスが好きだからということで「民田なす」を
作ることになったそうです。
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作り始めたころは、手間もかからず
量が収穫できて最高だ!と思われていたのですが、
ここ5年で気象が変わって、
雨が多すぎて日照不足の年もあれば、
昨年は例年のプラス5℃と異常に気温が高く、
花もつかないし、実も成らない、木が枯れていく…
「民田なす」は普通のナスと違い、
暑さ、病気への抵抗性、収量など含め、
伝統野菜だから、
近年の気候に合うような改良されていない。
だから、栽培がとても大変です。
今年はそれでも良い方で目標収量をどうにか
達成できそうとのことでした。
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「民田なす」の栽培について伺いました。
播種は3月15日。
まだ寒いので、ポット苗を温床栽培します。
苗を5月20日くらいに定植しました。
定植後の管理は、3本仕立てにして、
防除と除草です。
収穫は、7月頭から10月中旬くらいまで、
朝晩、毎日行います。
一般的なナスに比べ、背丈が低いので、
収穫が大変とのこと。
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収穫されたナスは、形、大きさ、傷など
厳しく選別選別をして、
地元の漬物メーカーの「本長」さんに
全量出荷されます。
ちなみに、大きさの基準を見せていただきました。
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現時点でも生産量が追い付かないほどの
需要があるそうです。
規格外品は、直売所に出したり、
ご近所に配ったり、
土岐さんが自家消費されているそうです。
採種は、部会の中で担当が決まっていて、
その方から分けてもらいます。
ご自身でも足りない時用に採種されるとのこと。
採種には、ソフトボールくらいの大きさになった
ナスを収穫して、種をとります。
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「民田なす」が大きくなると、
こんな形と中身になるのですね。
種も見えます。
「民田なす」も土岐さんも、
急激な気象変化に負けないで
頑張ってほしいと思いました。
出荷された「民田なす」が使われている
商品を手に入れるため、
「本長」さんに伺い、
「民田なす」の漬物2種類を購入しました。
「民田茄子からし漬」と
「粕漬」(「民田なす」使用)です。
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黄色い方がからし漬けです。
からし漬はナスのやや硬めの歯ごたえと
ピリッとさわやかな辛みが美味しく、
粕漬は、酒粕の風味が前面にふわっと
感じられる一品でした。
どちらも美味しくいただきました。
個人的には、
アルコールが苦手ということもあり、
からし漬の方が好みでした。
伝統野菜は本来、地元の気候だからこそ
作ることができる品種。
しかし、近年の「民田なす」は、
気候の変化が大きすぎるあまり、
栽培が難しくなっていました。
これからは、こうした課題とも
向き合わざるを得ない品種が
増えていくのでしょう。
伝統野菜は、地域の食文化を守る重要な存在です。
今後もその価値を守り続けてほしいです。
伝統と挑戦が詰まった「民田なす」の
取材となりました。
◆本長
所在地:山形県鶴岡市大山一丁目7-7
https://k-honcho.co.jp/
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山形県の伝統野菜を使用した漬物が多数あります。
オンラインショップからお取り寄せもできます。
気になった方はぜひどうぞ。
取材にご協力いただきました皆様、
ありがとうございました!
今日はこのあたりで。
食と農の未来がより豊かになりますように。
~マニアックな方向け情報~
「民田なす」が早生品種であるという部分を
記載します。
「民田なす」がこの記載からも
暑さに弱いことが分かります。
・最も早生の民田茄などは本葉が五~六枚で
最初の花が着く。そこで民田茄などは、
東北地方や北海道のような夏の短い地方に
向いている。九州のように温暖な時期の
長い地方では、最初の花の着くのは
少しは遅くとも、その後夏中着果し続ける
ような草勢の強い品種が望ましい。
また、松尾芭蕉も食したと思われる記述、
文化わかる記述がありましたので、
記載します。
・鶴岡市には「珍しや山を出羽の初茄子」
の句碑が三つ残っている。この句は、
元禄2年(1689年)6月10日(新暦で
7月26日)、羽黒山、月山から下山した芭蕉が
鶴岡でまとめた俳歌仙「雪まろげ」の
最初の句である。雪深い庄内地方では
静岡県のような早出しは
できるはずはないが、この時期のナスの味が
忘れられずこの立句が生まれたものであろう。
なお鶴岡近辺のナスは庄内の産物をあげた
『松竹往来』(1672年)や『荘内往来』(1700年)
にも記され、古くから名産品であったことが
知られる。そしてこの品種名の出た民田の
付近では初茄子を産土(うぶすな)神に
あげる習慣があり、春の重要な農耕行事である
早苗餐(さなぶり)をこの村では
茄子酒(なすだけ)と呼んでいる。
※参考文献
・『日本の野菜文化史事典』 青葉高著 八坂書房
・『都道府県別地方野菜大全』 芦澤正和監修 農