長くて淡いグリーンの美!飛騨・美濃伝統野菜「十六ささげ」@岐阜県本巣市

こんにちは。
北海道在住、
野菜くだものハンター、
食と農のコンサルタントの田所かおりです。

今回は、岐阜県の飛騨・美濃伝統野菜
「十六ささげ」についてのレポートです。

まず、ササゲについてです。
ササゲとインゲンは別物です。

『日本の野菜文化事典』によれば、
北海道や東北地方では、
インゲンをササゲと呼び、
本来のササゲは
アズキササゲ、セキハンササゲ
などと呼んでいる。
中部地方や西日本にもインゲンマメを
ササゲと呼ぶ地域がある。
とのことで、ややこしいのですが、
ササゲについてとりあげます。

ササゲは熱帯アフリカで作物化した
ものとされ、わが国には中国から
古代に渡来したとみられています。
『古事記』(712年)には、佐々義とある。
とのことで、日本では古くからある作物です。

ササゲには、乾燥種実を食用にするハタササゲと
若いサヤを野菜として利用する
ジュウロクササゲとの2つの変種がある。
ということで、今回は後者に該当します。
また、「十六ささげ」は他県にも同じ名前で
昔から栽培されている系統もあります。

呼び名や同名のものがあって
混乱しそうですが、今回は
飛騨・美濃伝統野菜の「十六ささげ」を求めて、
8月上旬にJAぎふの上田さんのご案内で、
大野さんの畑に伺いました。

こちらが今回お話を伺った大野浄子さんです。

御年89歳!
とてもお元気で、お話の流れで
年齢を耳にしたときはびっくりでした。

大野さんは、「十六ささげ」を50年近く
栽培されています。
「十六ささげ」は夏場の青物として
重宝されるそうです。

ちなみに上田さんによると、
糸貫エリアでの栽培は100年以上前からで、
「十六ささげ」の生産組合ができたのは、
60年くらい前とのこと。

多くの方はイチゴの後作に
ハウス内で栽培されるそう。
その場合のスケジュールは、
2月下旬に播種、
3月終わりに定植、
5月下旬から7月下旬まで収穫。

大野さんは、連続した作型で作られていて、
5月20日くらいから6月にかけて直播し、
収穫は7月10日前くらいから、霜が降りる前まで。
気温が下がると成長はゆっくりだけど、
豆の甘さがより感じられ美味しく仕上がるそうです。

収穫の目安は、このくらい。
(細い被写体なのでピントが合わずでした…
新聞のカメラマンさんも苦労されてた
そうです)

左が適期で右の1本は採り遅れ。
1日で10~15㎝伸び、太くなるそうです。
成長が早いですね!

毎日収穫しているけれど、
採り忘れがあると右のようになる。
かといって、細すぎると糸状になり
乾いてしまって、湯がいてもやわらかくならない、
美味しくないのだとか。

大野さんは、豆の感じが好きなので、
ご自身で食べるなら、右のやや太めの方を
いただくそうです。

出荷基準では長さと太さを見るとのことで、
LL 約40~50㎝、豆浮き出てないもの
L 約30~40㎝、豆浮き出てないもの
A 40㎝以上 LLより太いもの
B 30~40㎝ Lの太いもの

長すぎ、太すぎは規格外品で、
主に直売所で販売されます。

花がらをとっておかないと、こんな風に
ひっかかって曲がって育ってしまいます。

今年は花がバラバラ咲いているけれども、
例年だと、1番花が大体そろって咲いて、
1つの茎から2つ花がつき、
その豆の生育も揃うそうです。

2番花あたりになると、樹勢が弱くなってくるので、
開花も豆の成長もあまり揃わないとのこと。

種は、各生産者で自家採種をされています。

昔から種を受け継いで作っているので、
最上の状態を残したいとのことで、
他の品種との交雑を避けることはもちろん、
選抜にこだわりがありました。

大野さんは、豆の長さが2本そろっているもので、
豆が20粒入っているものを選抜されるそう。

岐阜県内でも糸貫で作る「十六ささげ」は、
先端まで淡い緑色をしていて、
(他のは先端に黒っぽい着色がある)
長い(40㎝程度)のが特徴だそう。
他のエリアの「十六ささげ」もあるけれども、
特徴が異なり、やや短めの30㎝。

また、ホームセンターでも
ササゲの種苗を販売しているけれども、
長さが30~40㎝で、伸びる前に太くなる
のだそう。

採種は、こんな風に
カラカラにしてから収穫します。

ちなみに、上田さんの手のひらの上の
こちらが豆(種)。

乾燥した豆をあまり食べることは
ないそうですが、小豆の代わりに、
お赤飯で食べられるそうです。
ご飯も色づくそうですよ。

栽培面での特徴を伺うと、
他の豆より肥料を欲しがる、
豆がいっぺんに伸びるからと。
また、栄養過多になりすぎると
花が咲かなくなるので、
施肥のタイミングも大事。
他の方は液肥で対応されているそうです。

水も欲しがる作物で、
毎日雨が降ったときは調子が良かったそうです。

暑いときに根本に水が残ってしまうと
熱で温められてしまって、根が傷む。
でも水切れが怖いので、
潅水は注意しながら行います。

また、収穫後に莢が熱を持つため、
朝5時くらいから8時、遅くても8時半には
収穫を終えるようにされているそうです。
なかなか大変ですね。

確かに、熱いです。
例えるなら、ホッカイロ並みでしょうか。

最後に、大野さんのお好きな食べ方を伺ったところ、
「十六ささげ」のピーナッツ和えとのこと。
ピーナッツをゴマ和えと同じ要領で
お砂糖とお醤油で味付けしていただくそうです。

他には、この地域だと、生姜とお醤油で味付けした
生姜だまりかなと。
暑い時期にはさっぱりしていて
食がすすみそうですね。

帰りに上田さんのご案内で、
JAの糸貫農産物販売所に寄りました。

まずは、「十六ささげ」のコーナー。

こちらはササゲの販売コーナーです。

色々なサイズがあります。
食べ比べをするため、
より「十六ささげ」に近い見た目の
長いササゲを購入しました。

関東でもあまり「十六ささげ」を
見たことがないので、
出荷先について伺ったところ、
「十六ささげ」は基本的に名古屋への出荷。
ネットショップでは
全国に発送も行っているそうです。

発送用の箱がこちらです。

やはり箱も細長かったです。


自宅に帰って、まずは写真撮影です。
こうして並べてみると、色の違いが分かりやすいです。

左が直売所で購入したササゲ、
右が飛騨・美濃伝統野菜の「十六ささげ」です。

茹でるとこんな感じの仕上がりになりました。
先に「十六ささげ」。

そして、直売所で購入したササゲ。

味の比較をすると、
「十六ささげ」の方が、青さを感じず、
わずかに歯ごたえが良い気がしました。

そして、大野さんに伺った
「十六ささげ」のピーナッツ和えです。

「十六ささげ」の控えめな味には、
確かに、ゴマより主張しないピーナッツの方が
合うかもしれません。
美味しくいただきました。

淡い緑色でとても長い糸貫の「十六ささげ」。
県内でもエリアごとに
特性が分化してきているところが
とても興味深かったです。

県外にも伝統野菜の「十六ささげ」があるので、
「〇〇十六ささげ」など、
それぞれで名前を付けても良いかもしれません。

筋がなく、シャキシャキよりも歯ごたえのある
上品なお味をこれからも繋いでいってほしいです。

◆糸貫農産物販売所
所在地:岐阜県本巣市三橋1044-1
https://www.jagifu.or.jp/about/store/detail.php?id=546
「十六ささげ」のほかに、柿「富有」、
イチゴ「美濃娘」、大玉トマト、
樹状完熟の梨などが主力品目とのことでした。

気になった方はぜひどうぞ。

取材にご協力いただきました皆様、
ありがとうございました!

今日はこのあたりで。
食と農の未来がより豊かになりますように。

~マニアックな方向け情報~
小豆の代用品としてお赤飯に使用するとのことで、
そのあたりの抜粋です。
冒頭でも触れましたが、ダイレクトに
「アズキ」や「セキハン」の名が
ついているササゲもあります。
ハタササゲの用途は
小豆とほとんど同じような使われ方ですね。
以下抜粋です。

・ハタササゲは乾燥した種子を菓子や餡にしたり
小豆と同様飯に混ぜて赤飯にするなど、
穀物として利用する。
ミトリササゲ、アズキササゲ、セキハンササゲ、
テンコウササゲなどと呼ばれるのは
このハタササゲである。

ジュウロクササゲの記載も記します。
各地でいろいろなものに例えられた
名前が付けられていて面白いと思いました。
以下抜粋です。

・ジュロウササゲは若莢を食用にする変種で、
関東では十六ササゲ(関西では十八ササゲ)、
三尺ササゲ、ミズラ、メズラなどと呼んでいる。
ミズラの名は御髪ササゲが略されたもので、
莢が髪のように垂れ下がるところから
出た名前と言われる。
九州、四国や関東の一部ではフロウ、
布良宇(ふらう)と呼び、欧米では
アスパラガス・ビーンと呼んでいる。

※参考文献
・『日本の野菜文化史事典』 青葉 高著 八坂書房

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