ピリッと大辛の伝統野菜「土気からし菜」家庭から地域の味へ@千葉県千葉市

こんにちは。
北海道在住、
野菜くだものハンター、
やさい直売所コンサルタントの田所かおりです。

今回は「土気(とけ)からし菜」の
レポートです。

千葉市農産課の石井さんにご紹介いただき、
野崎邦子さんの畑を訪ねました。

「土気からし菜」は、300年ほど前から
千葉市の土気地区(千葉市緑区)に
伝わる野菜です。

キーワードとしては、
「かなり辛く、雑草のように強い」でしょうか。

戦国時代、土気城があったころには、
漬物をお城に献上していた歴史もあり、
その後は、食用というよりは緑肥としての
利用がメインだったそう。
牛糞たい肥とともに
土壌にすきこんでいたといいます。
野崎さんの畑では、
落花生の裏作に緑肥として使用されていました。

土気からし菜の最大の特徴は、
からし菜を漬物にした時の辛味です。
漬物にすると特に辛味が際立つそう。
特に、今年の「土気からし菜」は辛くて
評判がよいとのこと。

生の葉の辛さは?ということで、
3人でもぐもぐ。

辛いような、辛くないような、いや辛い。
という感じでした。

アブラナ科の辛味成分については、
『食べ物と健康1:食品の化学と機能』
青柳康夫、津田孝範編著によれば、
「食品を切ったり、すりおろしたりする際に、
揮発性の含硫化合物である
イソチオシアネート類が二次的に生成する。
イソチオシアネート類は、酵素のミロシナーゼの
作用により前駆体である配糖体から生成する。
わさびや黒からしに含まれるシニグリンからは
アリルイソチオシアネートが、
白からしに含まれるシナルビンからは
4-ヒドロキシベンジルイソチオシアネートが、
だいこんに含まれる
4-メチルチオ-3-ブテニルグルコシノレートからは、
4-メチルチオ-3-ブテニルイソチオシアネートが
生成する。」

呪文みたいなカタカナが続きましたが、
要するに辛味のない前駆体が、
葉や茎を刻んだり傷をつけると
細胞が壊れることにより酵素と反応し、
辛味のあるイソチオシアネート類に変化する
ということですね。

食味としても辛味は大事ですが、
葉や茎を粉砕したときに放出される
からし菜の辛み成分が
土壌中の虫などに効くようです。

また、各家庭では
お彼岸にお客様の来訪があったときに、
「土気からし菜」の漬物を
お土産に持たせていたとのこと。

『聞き書 千葉の食事』によれば、
土気地区より少し北の旧八街町での
聞き取りが記載された部分に、
「こうこ(漬物)は、たくあんのほかに
からしなの塩漬けも良く食べる。
からしなの濃い緑色と新鮮な茎の噛み応えが、
食べるものを生き返る気分にさせる。」
とありました。
ここで出てきたからし菜が辛かったのか
この記載からはわかりませんが、
八街は落花生の産地でもあるので、
裏作で作っていたのかもしれませんね。

「土気からしな」が地域の伝統野菜として
知られるようになったのは、
10年ほど前に千葉市農産課の方の働きかけで
ブランド化を図ったことがきっかけ。

土気地区で栽培されたもののみ
「土気からしな」を名乗れますが、
今では一般的なからしなも
地域で栽培されるようになり、
直売所で安く販売されているそう。
辛味が段違いとのことですが、
正確に知らない方にとっては
同じに見えてしまったり、値崩れは心配ですが、
それだけ地域にからし菜が
浸透している証とも思います。

種の採種は各家庭でしているところもありますが、
なんと、千葉市農政課が
他のアブラナ科の植物との交配を防いで、
採種してくれているそう。

伝統野菜というと、
種とりができなくなり(しなくなり)、
残念なことに途絶えていくものが多い中、
とても画期的な取り組みだと思いました。

また、そのブランドを守る働きとして、
その種子を使用するにあたって、
メンバーは誓約書にサインをするそうです。
その内容は、種子を部員以外に渡さないこと、
販売する葉や加工品には
農産物にシールを貼ることなど。

こちらがそのマスコットキャラクターの
とけからちゃんのシールです。
なかなかの味わい深いさ。
現在「からし菜レディース」には個人7軒、
1つの団体が加盟されています。

「土気からし菜」の栽培は、
野崎さんの畑では10月から1週間おきくらいに
畑に直接すじ蒔きをします。
気候によって生育状況が変わりますが、
収穫は、2月末から3月のお彼岸の頃まで。

土気地域の気候は寒暖差が激しく、その気候が
「土気からしな」をより辛く仕上げているとのこと。
また、雑草のように強く、虫もつかないので、
農薬は使用しなくてもよいそう。

収穫する葉の目安を伺いました。

まず、用途としては漬物がメインなので、
漬物にした時にきれいなグリーンになるように、
赤味のないきれいな緑色の葉。
そして、茎は太すぎると
漬かるのに時間がかかるので、
鉛筆くらいの茎の太さがベスト。
太いものは主に生葉として出荷されます。

生葉は黄色くなりやすいそうで、
直売所でその日のうちに販売できる分だけを出荷します。

また、茎が固いとNGなので、
手で折って茎の柔らかさを
確かめながら収穫されるそう。
長さの目安は大体30センチ。

お彼岸が過ぎると、
花芽がつき始めたら、
緑肥として土壌にすきこむタイミング。
種がつく前にするのがポイント。
雑草のような生命力なので、
種が周囲に飛んでしまうと厄介なんだとか。


ちなみに、「からし菜レディース」以外でも
種を各自でつないで栽培されてるそうで、
千葉市「からし菜レディース」の種は茶色。
各家庭で採種している系統の種は
黄色と茶色が混じっているなど、
系統がいくつかあるようです。


野崎さんが、畑で連絡を取って下さり、
漬物を漬けていらっしゃる
「からし菜レディース」のメンバーの
鶴岡さんのお宅に案内してくださいました。
ちなみに、鶴岡さんの漬物は美味しいと評判で、
狙ってお店に来る方も多いそう。

こちらが漬物用の「土気からし菜」です。
漬物にする時は、軟らかい部分のみ。
固い茎は使いません。

漬物の材料は「土気からし菜」と塩のみ。
からし菜をよく塩でもんで、樽に漬け込みます。
水が上がってくれば、出来上がりのサイン。
だいたい2日くらいで漬かるそう。

そして、こちらが「土気からし菜」の漬物樽。

暖かい時期だと、塩のもみ込みが足りないと、
花芽の芯が樽の脇から立ってくるそうです。
なんという生命力。
冒頭のキーワードの「雑草のように強い」が
このエピソードからも伝わったでしょうか。

実際の加工現場を見学出来てラッキーでした。

こちらが野崎さんが
お土産として持たせてくださった、
大人気の「土気からし菜」のお漬物です。
とけからちゃんシールが貼られていますね。

こちらのお漬物へのお問合せは主に男性からで、
「懐かしいから送ってくれないか」
というもの。
きっと、おふくろの味なんですね。

そして、次に向かったのが、
「からし菜レディース」の団体メンバー
千葉エコ・エネルギーさんの畑。

看板には、「千葉市大木戸アグリ・エナジー1号機」。


こちら、千葉大学発のベンチャー企業で、
太陽光発電とその下で農業ができる
営農型太陽光発電所とのこと。
先進的です。

一般のソーラーパネルよりも小さなパネルが、
農業用機械が入れる高さに設置されていて、
地面にはちゃんと光が差し込んでいました。
そして、畑には「土気からし菜」。
ここで栽培される葉は赤くなりにくいそうです。

確かに、淡い瑞々しい緑色をしています。
寒風や霜がある程度防げるから
なのかもしれないですね。


ホテルに到着して、お皿をお借りして、
「土気からし菜」の漬物をいただきました。

辛さは結構なパンチ力です。
塩気とからし菜の旨味と奥にある甘みを
感じながら、美味しくいただきました。
刻んで納豆にのせて食べても美味しいそうです。

そして、後日、お送りいただいた
「土気からし菜」で、
同封いただいたレシピ集から
土気からし菜のジェノベーゼを作りました。
私なりのアレンジでカシューナッツを
ソースとトッピングに加えてみました。

びっくりするほどビビットな緑色に仕上がりました。

そして、火を通しているので辛味はなし。
「土気からし菜」のコクと旨味と
茎葉の歯ごたえを感じながら、
美味しくいただきました。

「土気からし菜」の生葉や手作りのお漬物は、
お彼岸くらいまでは
千葉市内直売所やマルシェ等で
手に入るかもしれません。
「とけからちゃん」シールを目印に
お買い物してみてください。

「土気からし菜」を扱っているお店のお問合せ先
◆千葉市農政課
電話:043-245-5758

今日はこのあたりで。
食と農の未来がより豊かになりますように。

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