伝統野菜「亀田赤かぶ」と赤かぶ漬け「真紅な真実」@北海道函館市

こんにちは。
北海道在住、
野菜くだものハンター、
やさい直売所コンサルタントの田所かおりです。

今回は、昨年11月初旬に訪問しました
北海道函館市に伝わる伝統野菜
通称「亀田赤かぶ」のレポートです。

江戸時代、北前船が就航していたころ、
北海道南部の函館周辺に
伝わったといわれる紅かぶ。

道南松前エリアでは、
昔から紅かぶがよくとれ、
味噌汁、ぬか漬け、千枚漬けなどにされて
食べられてきました。
(『聞き書北海道の食事』より)

道南に伝わる赤いかぶを求め、
JA函館市亀田女性部の活動を取材しました。

収穫の前日に山田美代子さんの畑を訪ね、
栽培についてお伺いしました。

とてもチャーミングな方でした。

山田さんはJA函館市亀田の女性部に所属されていて、
女性部が使う分の「亀田赤かぶ」を
栽培されています。

種はずっと絶やさないようにされてきたそうですが、
一度失敗してしまったことがあって、
今の種は組合長が特別におすそ分けしてくださった
ものだそう。
組合長さんが優しい方で良かったです。

種とりは、良い株だけ。
選ばれた株を畑から家庭菜園をされている畑に移植して、
春に花が咲いて、その後種をとるそう。

20株も採種すれば、何年分も。
虫がつかないよう蓋つきの容器に保管すれば、
3、4年は発芽するとのこと。

播種は8月中旬くらいに畑に直播します。
1か所に3、4粒播いて、間引きます。
かぶが押し合わないように株間は10㎝。
株間が広ければ広いほど大きく育ち、
大きいものは20~30㎝にもなるんだとか。
ベストなサイズは大体15㎝とのこと。

その後、管理を行い、10月下旬から11月上旬に
収穫時期を迎えます。

収穫するときには葉と根を切り落とします。

葉はこれまで食べたことがないそうですが、
食べてみる?ということで、
一緒にいただきました。

お味は、辛味はほとんどなく、
ただ、少しもそもそしている感じでした。

そして、生のかぶもいただきました。

そのお味は、かぶも辛いかと思いきや、辛くなく、
ほんのり甘くみずみずしく、
サラダでいただいても十分美味しいと思います。

漬物以外の利用もおすすめですね。

試食用に切ってくださったかぶを見ながら、
表面が赤くて、かぶの内部に筋が入るのが特徴。
もっときれいに筋が入るものがあり、
砂糖と酢につけると、全体的に赤く染まると
説明してくださいました。

畑の赤かぶは、明日収穫して、農協で洗浄し、選別。
その後水分を抜くために風に当てて4、5日間干し、
それから漬ける作業に入るそうです。

写真用にいただいた赤かぶです。
一般的にスーパーに並ぶかぶよりも
サイズが大きく、形は扁平。
葉も茎も赤いですね。

しっかり内部に赤い筋が入っています。

そして、数日が経過。

JA函館市亀田女性部のみなさんが、
「亀田赤かぶ」を漬ける
年に一度の作業日にお邪魔しました。

今回は全部で15樽分を漬け込みます。

こちらが乾燥後の亀田赤かぶです。
JA函館市亀田の職員の佐々木さんが
重さを測定されていまして、
干す前と比べて約25%水分が飛んでいるとのこと。

まずは、乾燥後の赤かぶのかさぶたのような部分を
丁寧に除く作業です。

そして、大きさに合わせて6分の1か4分の1に
切り分けます。
大きいかぶの方が軟らかく仕上がるそう。

見てください!この赤さ。
これはきれいに赤い筋が入っているということで
見せてくださいました。

そして、樽を消毒し、袋を広げ、
その中に切った赤かぶを20㎏入れます。

調味液を作り、赤かぶに加え重しをのせて
一緒に漬け込みます。

まずは、酢味噌漬け。
今年は6樽漬けます。

そして、酢漬け。
今年は9樽漬けます。

ポイントは、空気に触れさせないこと。
出来上がりは45日後だそう。

ちなみに、酢味噌漬けに使うお味噌は、
年明けに作って、夏に切り返したもの。
女性部のメンバーの方が栽培されたお米を使って、
麹を一からつくり、4日間かけてみなさんで
仕込んだものを使います。

まさにオール女性部手作りの
こだわりがぎゅっと詰まった赤かぶ漬け。
その商品名は「真紅な真実」(まっかなしんじつ)。
商品名もステキです。

実は、赤かぶ漬けは身内のみの販売。
直売所にも並びません。
だから、幻の漬物と呼ばれているんだとか。
どうしても食べてみたい方は、
女性部と関わりのある方に
お願いしてみてはいかがでしょうか。

そして、12月下旬に私の元にも届きました!

左が酢味噌漬け、右が酢漬けです。
ほんと真っ赤に漬かってますね。

今年の赤かぶ漬けは、暖冬の影響か
例年より赤色が濃く鮮やかに、
酸味が強く仕上がっているとのこと。

甘すぎず、酸っぱすぎず、ポリポリと
美味しくいただきました。

これからも、種も活動も絶やさず
繋いでいって欲しいと思います。

収穫時期には、JA函館市亀田直売所や周辺のお店に
生の「亀田赤かぶ」が並ぶと思いますので、
気になる方はぜひどうぞ。

◆農産物直売所「ファーマーズ・マーケット亀ちゃん」
所在地:JA函館市亀田本店敷地内店舗(昭和4-42-40)
※赤かぶや農産物の他に、
女性部の手作り味噌やべこ餅も販売しています。

今日はこのあたりで。
食と農の未来がより豊かになりますように。

~マニアックな方向け情報~
伝統野菜に関する本に道南エリアの赤いかぶ
として記載されているのは、大抵が「大野紅かぶ」。
今回取材した赤かぶとのつながりがあるのか
調べたところ、わかったことがあったため、
共有したいと思います。

まずは、伝統野菜が掲載されている本からの抜粋

・『日本の野菜文化史辞典』青葉高著より
大野紅蕪は北海道亀田郡大野町を中心に
道南一帯で栽培されている丸カブで、
根も葉柄も濃紅色になる。
関西地方から入った品種で品質がよく、
千枚漬けにされる。
福井県大野市付近の原産と
間違えられることが多いが、
福井県の河内蕪(大野赤蕪)は葉柄が緑色である。

・『47都道府県・地野菜/伝統野菜百科』
成瀬宇平、堀知佐子著より
「大野紅かぶ」とは、
北海道道南地区の北斗市(旧、大野町)一帯で、
江戸時代から栽培している日本種の代表的紅カブである。
近江商人が行商の過程で北海道へ持ち込んだ日本野菜と
いわれている。
根はアジア型に似た扁球形で、
外皮全体は鮮やかな紅色で、
肉質の特徴はきめ細かく甘みがある。
塩漬けや酢漬け、糠漬けなどの漬物に加工される。
同系のものに、青森の豊蒔紅(とよまきべに)、
滋賀の蛭口(ひるぐち)、万木(ゆるぎ)がある。

そして、道南エリアの赤かぶの由来に詳しい
北海道渡島総合振興局 渡島農業改良普及センター所長の
山口和彦氏に問合せたところ、下記がわかりました。

『農家の友 2015 11』山口氏執筆より
・代々自家採種して栽培されてきた「赤かぶ」ですが、
函館市内の生産者は、現在栽培されている在来種を、
「大野紅かぶ」とは違う系統として認識しています。
・現在は「大野紅かぶ」は普段見られない存在となっています。
・現在道南エリアで栽培されている在来種の赤かぶは、
函館市のM氏の祖先が明治期に来道した時に、
青森県福地村(現南部町)より持ち込んだ種子が、
函館市内に広がったことが確認できました。
さらに函館市以外で栽培されている在来種も、
北斗市(旧上磯町)の系統を除き、
函館市内に由来を持つ系統であることを確認しました。
また、種子譲渡のつながりと種皮型の関係から、
入手できなかった在来種についても、種子型をB型(推定B型)と
推定しました。
※B型=西洋系
・道南で確認できた在来種の種皮型は、
B型もしくは推定B型で、さらに葉色などの形質から
判断すると「大野紅かぶ」とは確認できませんでした。

他に、農研機構の「在来品種データベース」にも
「函館紅かぶ」掲載情報も教えていただきました。
現在道南エリアで栽培されている
赤かぶの真実を知りました。

・・・

山形在来作物研究会の定義によれば、
在来作物とは、厳密な定義はないが、
あえて説明するとすれば、
『ある地域で、世代を越えて、
栽培者によって種苗の保存が続けられ、
特定の用途に供されてきた作物』をいう。
とあります。

形質的特性から、
北前船で運ばれてきた系統とは違ったとしても、
今回取材させていただいた「亀田赤かぶ」は、
JA函館市亀田女性部のみなさんが食文化含めて
受け継いできた、在来作物、
伝統野菜に変わりないということで、
今回のレポートを締めくくりたいと思います。

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