「八列とうきび」歴史とともに味わう北海道伝統野菜

こんにちは。
北海道在住、
食と農のコンサルタント、野菜ソムリエ上級プロの
田所かおりです。

みなさんは、「八列とうきび」を
ご存知でしょうか。

見た目は名前の通り、
実が1周8列に並んだとうもろこしで、
一般的なスイートコーンよりも
細長い形状をしています。

実は少し大きめでぷっくりした形。

さらにマニアックな見方をするならば、
八列とうきびは、実が2列ごとに隙間なく並び、
少し間を開けてまた2列並ぶという配置。

とうもろこしの実の列はどれも偶数であることが
非常にわかりやすい構造をしています。

 
八列とうきびは、
北海道伝統野菜として知られ、
食の世界遺産「味の箱舟」にも認定されています。

(※北海道でのとうもろこしの栽培と歴史
については、最後に詳細を記載しています。)

 そんな八列とうきびを取材するため、
道内でも片手に収まるほどの数少ない生産者で
日本国内で最大の栽培面積を誇る、
三笠市にある及川農園さんを訪ねました。

及川さんが八列とうきびの栽培に
本格的に着手されたのが、
25年前の平成7年のこと。

実はそれよりも前の
農業を始められた今から42年前に、
誰も作っていないものを作ろうということで、
地元に種があった八列とうきびを栽培されました。
しかし、市場に出荷するも全然売れず、
その時はすぐに辞められたそう。

それから時が経ち、
25
年前に奥様とご結婚された頃に、
奥様のお知り合いの方から
八列とうきびを作ってくれないかと
言われたことがきかっけで
再び八列とうきび生産に取り組むことになりました。

当時、八列とうきびの種はどこにもなく、
以前焼き八列とうきびを作っていた家主さんの
納屋に少しだけ残っていた種を、
1年かけて増やして、翌年から生産を始められました。

種にも寿命がありますので、ギリギリのタイミング。

その時栽培しなかったら
八列とうきびを口にすることができなくなって
いたかもしれません。

今でも種は自家採取をされています。

普段だと畑に乾燥するまで置いておくそうですが、
虫が入ったり腐ったりするものもあり、
軒先で来年用の種を干されていました。


穫期を迎えた畑を案内していただきました。

近くに来ると、その草丈の高いこと。
私の背丈から見上げるとこんな感じです。

及川農園さんでは
現在1シーズンに6回の作型に分けて
八列とうきびを生産しています。

例年だと、
収穫期は8月上旬から1020日ごろまでですが、
今年は、収穫のスタートが1週間ほど遅れ、
8月末の暑さで後半の作型の成長が進み、
10月上旬くらいの見込みとのこと。

こちらがもうすぐ収穫時期を迎える八列とうきびです。

収穫のタイミングは、
実が入った状態を手で触って確かめたり、
ひげの色で判断するそうです。

熟度や収穫時期によって、
実の硬さや味わいが異なり、
8月でも十分美味しいそうですが、
気温が高い時期は実が少し硬くなる傾向とのことで、
甘みが乗ってくる9月が
一番おすすめとのこと。

味を確かめるため
道の駅三笠にある及川農園さん直営の
焼き八列とうきび屋さんに向かいました。

炭火で焼かれたこんがりきつね色の焼き八列とうきび。

味付けはシンプルに塩味です。

熟度違いで2本いただきました。

まずは、こちらの比較的熟度が進んだ方。
実がしっかりして歯ごたえ十分といった感じです。

噛めば噛むほどおいしさ、甘みを感じることができ、
天然のスナック菓子を食べているような味わいです。

こちらがもう一方の比較的若いものです。

熟度が進んだものよりも皮が軟らかく、
味も淡泊でさっぱりとした感じです。
皮が軟らかいと表現しましたが、
一般的なスイートコーンと比べると噛み応えは
十分あります。

硬いものが苦手な方は成熟があまり進んでいないものを
お勧めいたします。

八列とうきびは、
8列のうち、2列がくっついて並んでいるため、
間にできた隙間のおかげで、
スイートコーンよりもかぶりつきやすかったです。

道の駅のお店では、成熟度で3段階に分けて
生の八列とうきびも販売しています。

常連さんは自分の好みの硬さのものを
買っていかれるそうです。

自宅では、実をはずしてフライパンで乾煎りし、
火が通ったところでお醤油をかけ、
焦がし醤油で頂きました。

醤油味も美味しかったのですが、
八列とうきび本来の味を存分に楽しむなら、
シンプルに塩味が良いと思います。

北海道伝統野菜の八列とうきび。
今シーズンも終盤に入りました。

ぜひみなさまも、歴史に思いをはせながら、
八列とうきびを味わってみてはいかがでしょうか。

今日はこのあたりで。

食と農の未来がより豊かになりますように。

 ***************

ここからは、もっとマニアックな方向けに。

~北海道でのとうもろこし栽培の歴史について~

1908年、松前でわずかながらとうもろこしを
栽培してたというのが、北海道で最も古い
とうもろこしの栽培記録です。

本格的な栽培は、明治に入ってからのことで、
明治元年(1867年)にアメリカから
とうもろこしを導入したことが始まりとされます。

当時は主に馬糧用として栽培が推奨されており、
そのトウモロコシが畑作地帯では人の食糧になり、
茎や葉が家畜の飼料になりました。

明治の中頃、札幌農学校の教師が
アメリカから導入した品種に、
「札幌八行」、「ロングフェロー」があり、
これらの品種は昭和初期にかけて
最も多く栽培されました。
北海道の気候条件に合うため味も良く、
それほど肥料を入れなくても収量がよかったようです。

「札幌八行」を桧山南部の農村では、「ヤドリミ」と呼び、
種子が八列「やとおり」が由来です。

冬場は粉にし、「とうきびがゆ」にして食べられました。

参考文献:
『47都道府県・地野菜/伝統野菜百科』 成瀬宇平・堀知佐子/著

『聞き書北海道の食事』 「日本の食生活全集北海道」編集委員会/編集

『北海道の食 その昔、我々の先人は何を食べていたか』 村元 直人/著

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