こんにちは。
北海道在住、
野菜くだものハンター、
食と農のコンサルタントの田所かおりです。
今回は、山形県の伝統野菜
サトイモ「子姫芋」についてのレポートです。
秋の山形といえば、
河原で大鍋を囲む「芋煮会」。
取材時の翌々日はちょうど
大鍋の芋煮会でした。
その主役である里芋の中でも、
ねっとりとした食感と濃厚な風味が魅力の
「子姫芋」は、地元で愛されています。
そんな「子姫芋」を求めて、
9月中旬に
寒河江市役所の三條さんのご案内で、
黒田さんの畑に伺いました。
こちらが今回お話を伺った
さがえ子姫芋組合代表の
黒田祐一さんです。
まずは、「子姫芋」の歴史と伝来についてです。
お伊勢参りが流行していた江戸末期、
「子姫芋」は、地区の先祖が帰路で
持ち帰ったお土産として
福島県の会津地方から山形県に伝わりました。
また、幕末ごろになると養蚕が盛んに
行われており、
特に冬場の発酵熱を利用した貯蔵技術が発展。
蚕の餌となる桑の葉を
かます(わら細工でゴザのようなものを
二つ折りにして両端閉じた袋)にいっぱい詰めて
発酵で湿ったものを乾かすために、床下に広げ、
その発酵熱が利用されていました。
現代でも床下に石室があるお屋敷があるそうで、
その気温は大体5℃±1℃で保たれています。
サトイモの栽培には、
冬の貯蔵技術が非常に重要です。
サトイモの種イモは、
冬の間に一定の温度で
保存しなければなりません。
理想的な温度は7℃で、
限界温度は5℃以上、
温度が10℃を超えると
芽が出てきてしまいます。
そこで、養蚕技術を応用し、
発酵熱を利用して暖房することにより
サトイモの種イモを保存する
ことができたのです。
種イモとして作っていたのは
「カラトリイモ」。
赤い茎が特徴的で、
筋を取ると鮮やかな赤色になります。
DNA的には「海老芋」と同じで、
ほっくり感とねっとり感が
同居したような感じ。
寒河江では子芋を食べる早生の品種です。
また、「カラトリイモ」は、
芋、茎、葉が食用可能で
すべて無駄なく利用ができることが特徴です。
茎や葉は、生を茹でて
三杯酢で和える料理が一般的とのこと。
美味しいけれども、
近年は、食べる機会が減り、
核家族化によって
料理の仕方が伝承が
途絶えてしまっているそうです。
ちなみにこちらが、
「カラトリイモ」のずいき。
茎を乾燥させたものです。
私は実家の食卓に出てきたことがありますが、
確かに、一般的な食材とは言えないですね。
独特の風味と食感があります。
当時はこの「カラトリイモ」という品種が
主流でしたが、収量や育てやすさで
「子姫芋」も作られるように。
「子姫芋」は、「カラトリイモ」に比べて
収量が多く、早く煮えるという芋煮に適した特性と、
そのねっとりとした美味しさもあって普及しました。
ちなみに、「子姫芋」の茎はえぐみがあって
食べられないそうです。
栽培期間中に芽が出てしまい、
肉質が固くなってしまうことから、
一般的には、孫芋、ひ孫芋を食用にします。
株元を見ると、脇から細い茎が
何本もでています。
これが親芋や子芋の芽です。
親芋の収量に占める割合は3分の1。
親芋は筋張っていて固くてあっさりしたお味。
お味噌汁の具なんかに入れることもあるけれども、
ほとんどを捨てていたそうです。
せっかく食べられるのにもったいないとのことで、
親芋をキムチに加工され販売されています。
SDGsですね。
また、消費者の使いやすさを考え、
そのままの状態だけでなく、
皮を剥き真空パックにしたものも販売されています。
こちらは、その商品を冷凍して保管されていたもの。
皮が剥いてある方が価格が高いそうですが、
人気なんだそうです。
次は、栽培方法と現代版の貯蔵方法についてです。
「子姫芋」の定植は霜が降りなくなった
5月上旬くらいから行います。
黒マルチをはり株間は30~40㎝、
芽出しした種イモを植えるか、
ポットで苗を植えます。
ポット苗の利点は、少しでも早く育てられ、
植えた後に生育の揃いが良いこと。
その後、畑一面に畝間潅水をして
育てられます。
こちらが、収穫間際の
「子姫芋」の葉と茎です。
葉の下の部分に着色があるのが特徴です。
収穫は芋煮会が開かれ始める
9月から行います。
9月ごろは収穫はできるけれども
まだ生育の余地あり、
1反あたり1トンと収量は少なめ。
10月に入ると1反あたり3トンになり、
この頃の方が成熟し、
でんぷんの量が多くなり
品質も向上するそうです。
収穫は、株ごと掘り返し、
上の茎を切って土をなるべく落とします。
そして、天気の良い日に乾かして保管します。
収穫前に霜が当たると、
茎から溶けて芋にも影響があるため、
収穫のタイムリミットは
霜が降りる前とのこと。
黒田さんの保管方法は、
ビニールハウス内に
深さ1メートル程度の穴を掘り、
その中でサトイモを貯蔵します。
この方法をとることで、
温度の変化を抑えられるそうです。
寒河江市は、
ビニールハウスの肩まで雪が積もる
地域でもあるので、雪解け水があがらない
こともポイントだそうです。
黒田さんに「子姫芋」の
お好きな食べ方を伺ったところ、
一般的には芋煮、それから芋餅とのこと。
芋餅の材料は「子姫芋」だけ。
茹でてつぶして、納豆をかけて食べるお料理です。
芋だけでなく、
ご飯と一緒に炊いてつぶして食べても良く、
小学校の食育の授業を担当された時に、
ご飯と一緒に「子姫芋」を炊いて
納豆と醤油で味付けして
出したところ、ものすごい人気だったそう。
定番の芋煮も、芋餅もおいしそうですね。
帰り際に、「子姫芋」を
JAアグリ寒河江店で購入しました。
帰宅後、さっそく調理しました。
黒田さんがおっしゃっていたように、
包丁の背の部分でこすると
収穫してすぐのものはきれいに皮が
剥けました。
作ったのは、芋煮です。
「子姫芋」が予想以上に柔らかく、ねっとり!
食感が優しい。
そして美味しい。
ご飯と一緒に炊くお料理も作ってみましたが、
こちらも美味でした。
今まで食べたサトイモの中で
一番ねっとりとろけるお芋でした。
収穫はできるけど、
適期よりまだ少し早い9月に
芋煮会用の注文が来る理由に納得です。
生産量が増えて、北海道でも
食べられるようになったら嬉しいです。
◆JAアグリ寒河江店
所在地:山形県寒河江市大字西根字谷地田100-1
https://life.ja-group.jp/farm/market/detail/?id=1791
気になった方はぜひどうぞ。
取材にご協力いただきました皆様、
ありがとうございました!
今日はこのあたりで。
食と農の未来がより豊かになりますように。