こんにちは。
北海道在住、
野菜くだものハンター、
食と農のコンサルタントの田所かおりです。
今回は、岐阜県の飛騨・美濃伝統野菜
ジャガイモ「弘法いも」のレポートです。
伝統野菜の本を見ていると、
大根、カブ、カボチャ、
キュウリ、ナス、ネギなどの品目は
各地に根付いていて種類が多いのですが、
ジャガイモはなかなか見かけません。
一体どんなジャガイモだろうと、
「弘法いも」を求めて、8月上旬に
道の駅「うすずみ桜の里・ねお」直売所の
洞口さんのご案内で、
大堀洋子さんのお宅に伺いました。
実は、残念ながら取材時にはすでに
収穫後で、畑に「弘法いも」はなく、
お料理をご用意してくださっていて、
そのお料理をいただきながら、
お話を伺うことができました。
ではまず、お料理の紹介から。
「弘法いも」は基本的に、皮を剥かず、
皮ごといただくジャガイモです。
こちらが、定番中の定番、塩煮です。
塩の結晶が表面に出るまで
カラカラに煮るのがポイント。
皮ごとの方が香ばしく仕上がるのだそう。
では、早速いただきます。
栗とジャガイモの中間のような食感です。
塩をまとった存在感のある皮の下に
固めのホクホク感。
塩味が効いています。
私の知っているジャガイモで一番近いのは、
「インカのめざめ」ですが、
果肉の色は「インカのめざめ」より白色で
インカ特有の甘さはなく、
食感はさらに固いです。
そして、
もう一品出してくださったのが、甘辛煮。
湯がいてから、
甘辛く味付けをされたお料理です。
こちらも、食感は固めのホクホク感。
塩煮と比較すると、お芋を嚙むときに、
皮の部分がプチっとして、
その後、さらに噛むと割れる感覚に近い食感です。
ただし、生煮えのような硬さではなく、
ホクホクが固くなった感じ。
こんなに固いじゃがいもは初めてで
新鮮な出会いでした。
こちらもおいしく頂きました。
「弘法いも」の代表的なお料理として、
えごまを油が出るくらいすり鉢で擂って、
練ったものを和えるお料理もあるそうです。
先ほどから、食感が固めと表現していますが、
実はこの食感がポイントで、
奥の地域で作らないと、
このような食感にはならないそう。
洞口さん曰く、直売所のお客様から
「奥の地域で作られた「弘法いも」がほしい」と
言われるそうです。
そして、皆さまお気づきのように、
「弘法いも」のサイズは一般的なジャガイモより
だいぶ小さいです。
下の方のエリア(山を下ったエリア)だと、
硬さと味が違うそうです。
聞くと、大きいものより小さいものの方が
美味しいそうで、
大堀さんに「弘法いも」を予約される方は
小さいサイズを好まれるそう。
この辺りの地域では、奥にいくほど
やせ地だそうで、
やせた土地だからこそ、
「弘法いも」の味が引き立ち、
それが根付いたのではないか、
とおっしゃっていました。
また、「弘法いも」の名前の由来も、
昔、食料不足解消のために山畑を切り開き、
いもつくりを進めたといういい伝えと、
弘法大使の伝説とが融合して、
「弘法いも」と呼ばれるようになりました。
(岐阜県農政部HP:岐阜の極より)
弘法大使ご本人が、各地へ伝えたという
ことは無かろうかと思って、
調べてみたところ、
弘法大使が生きた時代が、774~835年。
日本へのジャガイモの伝播が
オランダ人によって、1603年にジャワ島の
ジャガトラ(ジャカルタ)、から長崎に入った説、
『長崎両面鏡』に1576年に南京芋長崎に来る
というのが最初であるなど諸説がある。
また、これとは別に、
北海道には寛政年間1790年ごろ
ロシアからサハリン経由で伝えられた。
ということなので、
弘法大使にあやかって付けられた名前というのが
自然かもしれません。
弘法大使が生きた時代に、
すでにジャガイモが中国に伝わっていたとしたら、
中国からこっそり持ち帰っている可能性は
あるかもしれませんが、
ジャガイモの原産地は中南米、
コロンブスの新大陸の発見が1492年。
はやり、弘法大使がじゃがいもと遭遇するのは
難しいと思われます。
さて、現代にお話をもどして、
大堀さんのお宅では、いつごろから
「弘法いも」を作られていたか伺うと、
おばあさまの前の世代にはすでに
「弘法いも」を作られていたそうで、
大堀さんが子供のころ、
おばあ様が孫たちが遊びに来ると、
みんなに焼いて出してくれたそうです。
栽培のお話も伺いました。
種イモの植え付けは4月20日くらいに行います。
肥料は植え付けの時に少しだけ。
種イモは、芽が密集しすぎないように、
芋の頭の部分を落として植えつけます。
種イモには、大きな芋をまわすそうで、
大きい場合は、頭を落としてから、
3分割くらいにして植えつけるそうです。
出てくる茎も、一般のジャガイモの茎より細く、
数も多いそう。
知らない人だと、
こんなんで大丈夫か心配になるのではと。
そして、そこに沢山小さい芋が
付くということでした。
植え付けの後の作業は、
芋が土から出てこないように
土寄せを2回ほど。
収穫は7月中旬から下旬くらいに行います。
ちなみに、「弘法いも」のお花は紫色だそう。
農薬は使用せずに栽培されています。
収穫後は日が当たらないように乾かし、
翌年使う種イモと分けておくそうです。
今年の種イモはお米の袋に
8分目ほどの量(大体20㎏)を
使われたそうです。
このエリアで「弘法いも」を
生産しているのは4件で、
うち2件は自家用だそう。
昔はほとんどのお宅で作っていたそうですが、
後継者が居なかったり、
居てもこの土地に通いで畑をしている方が
ほとんどとのこと。
ここで農業をするには、
動物の被害が多すぎるから、と。
大堀さんも私の代で終わりと
おっしゃっていました。
畑に育つ「弘法いも」が見られなかったので、
北海道で作ってみてはどうか
ご提案をいただきました。
道の駅「うすずみ桜の里・ねお」直売所で
販売していた「弘法いも」です。
春まで種イモを無事に保管できたら、
やせ地を探して育ててみたいと思います。
「弘法いも」の美味しさは
根尾地区のやせた土地ならではのもの
ということがわかりました。
基本的に、種ではなく、イモで育てるジャガイモは
毎年作らないと翌年につながらない作物。
少しでも長くつないでほしいです。
◆道の駅「うすずみ桜の里・ねお」直売所
所在地:岐阜県本巣市根尾門脇433-3
https://michinoeki-fp.jp/article/6401/
「弘法いも」の他に、「徳山とうがらし」、
自然薯や栃の実を使った加工品など、
魅力的な特産品がありますので、
ぜひ訪問されてみてはいかがでしようか。
気になった方はぜひどうぞ。
取材にご協力いただきました皆様、
ありがとうございました!
今日はこのあたりで。
食と農の未来がより豊かになりますように。
※参考文献
・『日本の野菜文化史事典』 青葉高著 八坂書房