飛騨・美濃伝統野菜「沢あざみ」との邂逅 その味と栽培の実態を探る@岐阜県揖斐川町

こんにちは。
北海道在住、
野菜くだものハンター、
食と農のコンサルタントの田所かおりです。

今回は、岐阜県の飛騨・美濃伝統野菜
に選ばれている、
「沢あざみ」についてのレポートです。

皆さまは「沢あざみ」をご存じでしょうか。

飛騨・美濃伝統野菜の資料で
写真と名前だけは目にしていたものの、
どんな植物なのかわからず、
謎多き野菜でしたが、
今回実物に出会うことができました!

まずは、「沢あざみ」のプロフィールを。
学名は、Cirsium yezoense (Maxim.) Makino
キク科のアザミ属に分類される野菜です。

『牧野新日本植物図鑑』を見てみると、
アザミと名の付く植物が沢山ありますが、
この学名は見当たらず。

また、アザミ属は北半球に250種くらい
あるとされており、
日本には100種ほど自生していて、
日本全土に分布し、
このうち30種ほどが食用になる
(『地域食材大百科 第4巻』)
とのこと。

今回取材した「沢あざみ」は、
大型の多年草で、葉はうすく、
刺針はごく小さく、ふれてもあまり痛くなく、
栽培に適している。
夏に1~2メートルの花茎を出し、
秋に紅紫色の頭花を横向きに開く。
(『野菜の日本史 青葉高著作選Ⅱ』より)

ということで、
一体どんな野菜なのだろうと心を躍らせて
「春日きゅうり」の取材をさせていただいた
山田千恵子さんにその栽培の方法と
食べ方についてお話をお伺いしました。

こちらが、「沢あざみ」です。

この状態だと、少し大きくなりすぎている
そうです。

というのも、「沢あざみ」は宿根草。

ここ伊吹山は冬は1~3メートルくらいの
積雪があり、冬場は除雪をしないため、
入れなくなるそうなのですが、
4月に雪解けし、
株元から出てきた新芽を
カマで刈って収穫します。
そのあとは、また伸びてきたのを収穫して、
というのをシーズン中に繰り返し、
全部で3、4回、5月から10月にかけて
食べられるそうです。

大きくなったものは、固いとのこと。
ちなみに、葉の表と裏はこんな感じ。

「沢あざみ」を食用にする部分も変わっていて、
なんと、葉の芯、軸のみ。
軸の周りの葉の部分は食べず、
葉をしごいて取り除きます。

飛騨・美濃伝統野菜の資料の写真を見たときに、
アザミでこんな形の植物あるのだろうか。
と思っていましたが、軸のみとは。
やっと謎がとけました。

『地域食材大百科 第3巻』によれば、
日本に自生するアザミのうち、
サワアザミ、タチアザミは若芽
サワアザミ、タチアザミ、ナンブアザミ、
ダキバヒメアザミは茎、
ハマアザミ、モリアザミ、フジアザミ、
オニアザミ、エゾアザミは根を利用する。
この中で、モリアザミが「ヤマゴボウ」という
名称で野菜として栽培されている。
とのことでした。

日本全国には
有用なアザミが沢山あるようなので、
アザミの見分け方がわかれば、
もっと利用してみたいと思いました。

そして、食べ方ですが、
アクがあるので、一晩塩漬けにして、
翌日洗って、油炒めにしていただくそうです。
油揚げと合わせて炒めると
美味しいとのこと。

ちなみに、『聞き書 岐阜の食事』に
昔ながらの食べ方が紹介されていました。
味噌汁の実は、こしも(じゃがいも)に、
県下でも珍しい
おおあざみ(さわあざみ)である。
あざみは小さいうちは葉も食べられるが、
大きくなると、葉の部分はすて、
太い葉軸だけを利用する。
煮物にも利用されたようで、
「おおあざみとこしもの煮物」とあり、
あざみのあいくさには、
こしものほかに、
蒸しいわし(煮干し)もよい。
おおあざみは谷のいたるところにあり、
ときには屋敷まわりにも植えられる。
とありました。

昔は、この辺りでもそこらへんに生えていた
そうですが、
今では、シカが食べてしまって、
食用に畑に植えたものくらいだそう。

ただ、種が飛ぶと、繁殖力が旺盛で
辺り一面がアザミ畑になってしまうので、
1株残して、邪魔な株は排除するそうです。

加工された特産品もあり、
かすがモリモリ村フレッシュ館で
販売していたと思うと伺い、
帰りに寄ってみたところ、
生の「沢あざみ」と
加工品の「沢あざみ惣菜」を
購入することができました。

ちなみに、加工品の方は、
10℃以下で保存とあり、
一瞬、買うか迷いましたが、
ホテルの部屋ある冷凍冷蔵庫で
ペットボトルを凍らせて、
それに巻き付けて持ち運んだのでした。
(はい、執念です。)

自宅に戻って、
「沢あざみ」を観察しながら、写真撮影。

茎の断面はこんな感じです。

次は調理を。
生の「沢あざみ」は山田さん直伝の方法で。
まずは塩漬けにして、
その後茹でました。まずは塩漬けにして、

その後茹でました。

見てください。
この「沢あざみ」の茎の量で、
こんなにアクが出ています。

そして、油揚げと一緒に炒めて、
甘辛く味付けしていただきました。

ゴボウに似た、豊かな風味で、
シャキシャキとした食感と、
油揚げのカリカリ、ジュワーと一緒に
美味しくいただきました。

加工品の「沢あざみ」は
そのまま器に移し替えていただきました。

炒め物よりはやわらかく、
こちらも「沢あざみ」独特の風味を
楽しみながら、美味しくいただきました。

色々と野菜くだものを見て回っていると、
新しい品種との出会いはありますが、
新しい品目との出会いはとても少ないです。
今回は、そういう意味でも
とても勉強になり、貴重な機会となりました。

皆さまも揖斐町に行かれることがあれば、
ぜひ召し上がってみてください。

◆かすがモリモリ村リフレッシュ館
所在地:岐阜県揖斐郡揖斐川町春日六合3429
https://morimorimura.com/#

気になった方はぜひどうぞ。

取材にご協力いただきました皆様、
ありがとうございました!

今日はこのあたりで。
食と農の未来がより豊かになりますように。

~マニアックな方向け情報~
「沢あざみ」に関連しそうな内容を
ピックアップしました。

・薊は奈良時代以前から食用にされていた。
葉薊は束、把でも数えたが、
石斗で示したものもあり、
ばらばらでも扱われたらしい。
その価格は菜の中では最低の部類で、
薊は大衆的な菜であったと思われる。
薊は漬物にし、一年以上もおいた古漬けも食用にした。
しかしこれが栽培品かどうかは明らかではない。

・江戸時代の農書などをみる
と薊は当時重要な野菜ではなかったにしても、
野菜として栽培していた。
『本草網目』の記述を紹介し、
大薊は鬼アザミと云う、若きとき葉を食す、
苦芙(サワアザミ)は小にしてはりなし、
味小アザミの如し、沢辺に生ず、性あしからず、
食うべしと記している。

・しかし、明治以降は栽培はされず、
ただ山菜として野生品を食用にしている。

・奈良、平安時代に栽培した薊と、
野生を採取して食用にした大薊が
現在の何であるのか、
それを明示した資料はみられない。

・栽培した薊も単一種とは限定できないが、
おそらく『菜譜』などで記している
サワアザミだと思われる。
ただし、サワアザミは現在伊吹山以北に分布する
といわれ、これが正しいとすると、
西日本では東日本に野生する
サワアザミの株を移し植えたと
みなくてはならない。

まさか、奈良時代より前から
食されていたとは、驚きでした。
野菜界では、かなりの大先輩。
もっと多くに人に知られる機会が増えると
良いと思います。

※参考文献
・『野菜の日本史 青葉高著作選Ⅱ』青葉高著 ㈱八坂書房
・『地域食材大百科 第4巻』 農文協編
・『聞き書 岐阜の食事』 森 基子他編 農文協
・『牧野新日本植物図鑑』牧野富太郎著 北隆館

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