「小野川豆もやし」温泉の恵みと守られる伝統の味@山形県米沢市

こんにちは。
北海道在住、野菜くだものハンター、
食と農のコンサルタントの田所かおりです。
「小野川豆もやし」は、
山形県米沢市の小野川温泉で
育まれてきた野菜で、
山形おきたま伝統野菜にも
認定されています。

そんな「小野川豆もやし」を求めて、
山形県米沢市の温泉街の一角にある
豆もやし小屋へ
2月下旬に取材にお伺いしました。
お話を伺ったのは、
「小野川豆もやし業組合」
組合長の鈴木巌(すずき いわお)さん。

「小野川豆もやし」は
冬の豪雪に包まれる土地で、
温泉のぬくもりを生かして
育てられています。
小野川温泉のあるこのエリアは、
かつて「三沢村」と呼ばれていました。
このエリアでは昔から個人で家庭用に
もやしが栽培されていました。
その後、大火によって
全世帯が焼失した三沢村は復興をめざし、
自給していた豆もやしを商品化。
大正12年(1923年)に
「三沢村大字小野川もやし業組合」が
設立されました。
復興資金を完済したのち、
「これからは生産者自身で運営を」
という方針が打ち出され、
現在の「小野川豆もやし業組合」が
誕生します。
設立当初は72軒の農家が
所属していましたが、
現在は組合員が54名。
そのうち実際に栽培を続けているのは
わずか2軒のみです。
数の上では減少しましたが、
長い歴史の中で
受け継がれてきた技術と誇りは、
今も変わらず息づいています。
「うちの豆もやしは、
温泉水の熱を使って
7日間で育てるんです」と鈴木さん。

もやし小屋の中には
“もやし場”と呼ばれる栽培スペースがあり、
45センチ×2メートル、
深さ45センチほどの箱が
ずらりと並んでいます。
箱の底には最上川の源流から
規制がなかった頃に運んできた砂が
敷かれており、
これが発芽と洗浄に最適なのだといいます。

豆をまく前に一晩、
温泉水に浸けるのが最初の工程。
下を流れる温泉の温度は26〜27℃、
源泉は80℃近くあります。
地中を通るうちに熱がやわらぎ、
さらに水を加える量を加減して
箱の中は30℃前後に保たれます。
この“ぬるさ”が発芽に
理想的な環境をつくります。
栽培は一見シンプルですが、
管理は非常に繊細です。
「30℃を超えると
根が赤くなってしまう。
33〜34℃まで上がれば茎まで
赤くなって商品にならない。
逆に温度が下がると伸びない」と鈴木さん。
源泉の温度は
季節や天候によって変動するため、
毎日確認します。
わずかな違いで
品質が変わってしまうからこそ、
毎朝の温度確認と調整は欠かせません。

「毎日1回豆をまいて、
3日後からは毎朝箱を開けて
湯気を逃がします。
湯気にあたり続けると
赤くなったり茶色になったり
するんですよ」。
収穫のない日でも必ず小屋を訪れて
状態を確かめるのが日課です。
温泉の蒸気に包まれた
小屋の箱の中では、
大豆がゆっくりと芽を伸ばしていきます。
発芽から収穫までは約7日間。
7日を過ぎると本葉が出てしまい、
胚軸(茎の部分)が固くなります。
「伸ばせば重さは出るけど、味が落ちる。
美味しさを優先して7日で
収穫します」とのこと。


収穫後は温泉のぬるま湯で砂を落とします。

豆の部分に栄養が残った状態で
収穫することで、
味わいが保たれます。
温泉の熱で保たれる環境の中、
夜明け前に収穫された豆もやしは、
白くまっすぐでみずみずしく、
見た目にも清らかです。

1回の栽培が終わると、
箱の砂をすべて入れ替え、
新しい砂を敷き直します。

使用後の砂は1シーズン外にさらして
風雨に当て、翌年の栽培に備えます。
これは連作障害を避けるための工夫。

さらに温泉水にはマンガンなどの
ミネラル分が含まれており、
これが砂に染み込み、
もやしの風味を一層深めています。
「温泉の成分を調べたら、
マンガンとかミネラルが多く
含まれているんですよ。
だからかな、味が丸くて柔らかい」。
温泉育ちのもやしという言葉は、
決して比喩ではなく、
実際に“温泉の恵み”そのものなのです。

出荷期間は11月から翌年4月中旬ごろまで。
気温が上がると温泉の湯温も上昇し、
30℃を保つのが難しくなるため、
春の終わりとともにその年の栽培を終えます。
生産量は1日およそ40kg。
販売先は、温泉街の商店「まるたや」や
米沢市内のスーパー、
県内外の特産品ショップ、
そして飲食店など。
使用する大豆は、もやし専用の在来品種です。
「別の品種でも
もやしにはなるけど、
味が全然違うんですよ。
緑豆のシャキシャキとは違って、
豆の部分の味が濃い。
枝豆でも品種で違うように、
もやしも豆で変わるんです」。

7〜8年前までは地元で全量を
栽培していましたが、
サルによる被害が相次いだため、
現在はサルの来ない米沢市平野部に
一部委託して生産しています。
完熟した豆を使わないと
良いもやしができないため、
畑の管理も手間がかかります。
6月初旬に種をまき、
11月中旬に収穫。
晩生の品種で栽培期間が長く、
昔は寒くなるのが早く、
秋の収穫期には
初雪に追われながらの作業に
なることもあったそうです。
1年に使う豆の量は30俵(およそ1800kg)。
豆の品質重視で畝間を広くとり、
草が生えやすい環境の中で
丁寧に育てます。
「完熟じゃないと美味しくならない。
だからどうしても手がかかる。
でも、いい豆を作らないと
いいもやしもできない」。
品質を優先し、
効率よりも味を守るという姿勢が、
鈴木巌さんの誇りです。
豆もやしの食べ方も
地域の暮らしに深く根付いています。
鈴木さんの奥様は
毎日のように豆もやしを料理に使うそうです。
「シャキシャキに茹で上げるため
水から茹でます。
豆が柔らかくなるくらいが目安。
辛子醤油で和えると美味しいですよ」。
と教えてくださいました。
おひたしのほか、
すき焼きや煮物にも使われ、
最後に入れると
豆から出る出汁が料理全体を
まろやかにしてくれるそうです。
地域の食卓では、冬の間の
大切な青ものとして欠かせない存在です。
温泉小屋での作業は重労働で、
温度管理・砂の入れ替え・豆の選別など、
すべてが手作業。
「いくら美味しいといっても、
高ければ買ってもらえない。
でも“美味しかった”という声が
何よりの励みです」。
湯けむりの中で作業するその姿には、
地域の味を守る責任と誇りが宿っています。

もやし栽培の技術は、
かつて温泉を利用した稲作の
「芽出し栽培」にも応用されました。
三沢村では温泉を使って
3市5町の種もみを発芽させる事業が
行われていたのです。
地熱エネルギーを利用したこの方法は、
今でいう持続可能な循環型の
取り組みとも言えるでしょう。
雪国の暮らしの中で、
温泉と共に生きてきた人々。
「小野川豆もやし」は、
豪雪の地に生きる人々が紡いできた、
知恵と努力の証が詰まっていました。

「小野川豆もやし」が使われている
地元の名物と言えば、こちら。
お食事処龍華さんの
「豆もやしラーメン」。
鈴木巌さんの育てた「小野川豆もやし」です。


シャキシャキとした食感と
豆の風味がラーメンスープと相まって
とても美味しくいただきました。
そして、自宅に帰って、
奥様に教えていただいた方法で茹でた
「小野川豆もやし」を
おひたしでいただきました。

シャキシャキした食感。
豆の部分は
優しく味わい深いお味でした。
ご馳走さまでした。
「小野川豆もやし」
今シーズンももうそろそろスタートです。
気になった方はぜひどうぞ。
◆お食事処 龍華
山形県米沢市小野川町2788
TEL:0238-32-2808
取材にご協力いただきました皆様、
ありがとうございました!
今日はこのあたりで。
食と農の未来がより豊かになりますように。
